キミのために一生分の恋を歌う② -last stage-

午後8時過ぎ。消灯前で少し手薄になる時間を狙って私はまた病室を抜け出した。
今度はスタッフステーションの前を通らないようにして、非常階段から下に降りた。
既に真っ暗になっている外来のトイレの中で私服に着替えて、パジャマは後で回収しようと紙袋に入れて隅に置いておいた。
予めリリーバーを吸っておいて、発作も予防する。よし、準備万端だ。

1週間ぶりの外の夜の空気。夏だから、モワッとしてて不快なだけのはずなのに何故か病院にいる時より安心できた。
私は繁華街へと向かった。
本音を言えば少し息苦しいけれど、外に出てしまったら不思議といつも通りの自分に戻れた気がして、嬉しくて気にならなくなった。

渋谷にある店はどこも夜遅くまで開いていて助かる。
念の為に髪をまとめて深く帽子を被っていたので、街ゆく人たちも誰も私だとは気が付かない。

「いらっしゃいませー!」

到着したそのお店はAONO SUMI 渋谷店だった。
優しそうな店員さんがすぐ私に近付いてきて、話しかけてくれる。

「お姉さん、何かお探しでしょうか? お手伝い出来ることがあったら何でも仰ってください」
「あ、あの、男性へのプレゼントでオススメって何かありますか?」
「わー、もしかして彼氏さんへのプレゼントですか?」
「はい⋯⋯私たちまだ付き合ったばかりで。私は彼氏とか初めてだから。迷惑かけてばっかりで⋯⋯だからお礼がしたくて」
「お姉さん、初々しくて可愛いすぎです!! ぜひお手伝いさせてください」

その後は、店員さんは本当に熱心な様子で一緒にプレゼントを選んでくれた。
私も晴の好きなものとか色を聞かれて話す度に嬉しくなって、楽しい時間になった。

「ありがとうございました! またどうぞお越しくださいませ」
「はい、また来ます」

店員さんに頭を下げて、店を出る。手には紙袋。丁寧にプレゼント用のラッピングもしてくれて大満足だった。