キミのために一生分の恋を歌う② -last stage-

2人きりになった病室で、晴は私を見て優しく微笑む。
その目がとても愛しくて、今すぐに抱きしめたくなる。
でも今の晴はお医者さんモードだから、そこは弁えないとと思い直す。

「小夏、聴診するよ」
「はーい」

私がパジャマの上の服の紐を解くと、手馴れた手つきで服の隙間から晴の細くて長い腕が入ってくる。
そんなことにも、私だけはまだいちいちドキドキしている。

「次は酸素と脈拍も測らせて」

黙ったまま私は従う。
一番最初に晴がbihukaを続ける条件としてあげたのが、「治療を嫌がらずに受ける」だったことを忘れてはいない。

「うん。大分調子良さそうだね。血液検査の結果も悪くないし今日で点滴は外そう」
「じゃあもう退院できる?!」
「なぜそうなる」
「えーだってもうすぐライブ本番だし! そう言えば会場のモールで下見を兼ねて晴とデートするって約束もしてたよね? その約束も果たさないと⋯⋯というかホントに恋人として行けるなんてさぁ、ふふふ幸せ⋯⋯」
「あの小夏さ〜ん⋯⋯? お楽しみ中のところ悪いけど戻ってきて〜〜」

晴が私の顔の前で手を振ったので、ハッと夢から覚めた。

「まだ退院はさせられないよ? というかゲリラライブの時点であの調子では小夏はここからライブに行った方がいい」
「えー!? 入院したままライブに行くの? 無理無理、リハだってあるんだよ?」
「いつ?」
「14日の夜」
「じゃあ、14日と本番の16日だけは僕が外出許可を出す。それまでは絶対安静。ライブが終わっても状態が落ち着くまではここで様子見。退院させられない」

むむぅと私が腕を組むと、晴は仕方ないなぁという様子でため息をついた。

「14日のリハ前は朝から僕と約束のデートしよう。それで幾分かは気分が晴れるでしょ? そうでもしないと小夏のことだからそろそろ病院を抜け出しかねない」
「なんで分かったの?!」
「顔に書いてあるんだよ。とにかく予定通りにやりたいなら、食事もよくとって休むこと。次のライブでも発作起こしたら⋯⋯分かってるよね?」

晴の目がマジである。
これはドクターストップかけてくるやつだ。
ミニライブの後はドームでのラストライブ。絶対に絶対に辞めるなんてことできない。