屋上に着くと、少しだけいつもより冷たい風が吹いていた。
ちょっとずつ夏が過ぎて、季節は確かな足取りで進んでいた。
「晴、こっちきて!」
「はいはい、走るなよ」
「ここから更に上に上がれるんだよ。このはしご」
「わかったわかった」
2人ではしごを上がると、この街が一層に広く見渡せた。
私は両腕を拡げて思い切り息を吸う。
「ここ、私の秘密基地なんだ!」
「いいの、秘密なのに教えちゃって」
「晴だけはいいの。私ね、喘息つらかったり他にも悲しいことがあったときには、いつも1人でここに来てた。ここでこうして思い切り息を吸うとね、何もかもなかったみたいに思えたの」
「小夏らしいな。きっと歌ったりもしてたんだろ」
「バレたか」
「小夏の考えることなんて、大体わかる。それで僕に、大切な、話したいことがあるんだろう?」
頷く私。
「私の……家族の話」
「うん、全部聞くよ」
「まだ、ちょっとだけ怖いんだ」
「それも分かってる」
震える私の手を握ってくれる晴。
「本当は分かってる……私がこれまでしてきたこと、全部なかったことになんてできないって。でも、晴がいるから。ちゃんとしようと思えた。自分の運命と向き合おうと思えた。晴だけが……晴だけだよ。私に本当の恋を教えてくれた」
「僕も小夏に出会えて幸せってこんな感じなんだって知った。多分それはこんなに穏やかで普通で、ちょっとだけ寂しいんだ」
「そうだね、寂しい。想いが通じ合うって幸せなんだけど、終わりが寂しい……。だからありがとうね、一生分の幸せな思い出をくれて」
「おい勝手に終わらせるな。感謝なんかいらない。これから先ももっともっと楽しい記憶は増えていくんだから。こんなちっぽけな思い出で満足なんかするなよ!」
「もういい、ねぇ晴は笑ってよ。お願い。いまの私と写真を撮って」
私が笑うと晴は写真を撮って見せてくれる。
もちろん、インカメラにして2人の写真も何枚も撮った。
「じゃあこれにしてね。私の遺影」
「嫌だ……」
「ずっと言わなかったけど、晴もかなり分かりやすいよ。私、結構良くないんだよね」
「教えない。教えたくない。それにまだ方法なんていくらでもある。僕が小夏を絶対に死なせない! だからそんなこと言わないでくれ」
晴は耐えきれないように、私のことを強く抱きしめた。
離れがたい。
こんなにも大好きなのに、離れていく。
「いいんだよもう隠さなくて。晴だけで苦しい気持ちを抱え込まないでいいんだよ……晴の家のパソコンデスクの1番上。その引き出しに大事なものは全部入れといたから。その時がきたらお願いね。たまにでいい。皆に私がいた事、思い出して欲しいから」
「もう止めてくれ……僕たちはこれからもずっと一緒だろ」
「うん。一緒。私と晴は運命共同体。だからしっかりお願いしたからね。私もう少しなら頑張れるから。じゃあ、話すね。家族のこと」
私は、自分の家族のことを全て晴に話した。
ーー冬夜のことも。
出会いから別れまで全てを。
冬夜のことを自分がどれだけ愛していたのかも。
残酷なほど正直に、自分の本当の気持ちを話した。
ちょっとずつ夏が過ぎて、季節は確かな足取りで進んでいた。
「晴、こっちきて!」
「はいはい、走るなよ」
「ここから更に上に上がれるんだよ。このはしご」
「わかったわかった」
2人ではしごを上がると、この街が一層に広く見渡せた。
私は両腕を拡げて思い切り息を吸う。
「ここ、私の秘密基地なんだ!」
「いいの、秘密なのに教えちゃって」
「晴だけはいいの。私ね、喘息つらかったり他にも悲しいことがあったときには、いつも1人でここに来てた。ここでこうして思い切り息を吸うとね、何もかもなかったみたいに思えたの」
「小夏らしいな。きっと歌ったりもしてたんだろ」
「バレたか」
「小夏の考えることなんて、大体わかる。それで僕に、大切な、話したいことがあるんだろう?」
頷く私。
「私の……家族の話」
「うん、全部聞くよ」
「まだ、ちょっとだけ怖いんだ」
「それも分かってる」
震える私の手を握ってくれる晴。
「本当は分かってる……私がこれまでしてきたこと、全部なかったことになんてできないって。でも、晴がいるから。ちゃんとしようと思えた。自分の運命と向き合おうと思えた。晴だけが……晴だけだよ。私に本当の恋を教えてくれた」
「僕も小夏に出会えて幸せってこんな感じなんだって知った。多分それはこんなに穏やかで普通で、ちょっとだけ寂しいんだ」
「そうだね、寂しい。想いが通じ合うって幸せなんだけど、終わりが寂しい……。だからありがとうね、一生分の幸せな思い出をくれて」
「おい勝手に終わらせるな。感謝なんかいらない。これから先ももっともっと楽しい記憶は増えていくんだから。こんなちっぽけな思い出で満足なんかするなよ!」
「もういい、ねぇ晴は笑ってよ。お願い。いまの私と写真を撮って」
私が笑うと晴は写真を撮って見せてくれる。
もちろん、インカメラにして2人の写真も何枚も撮った。
「じゃあこれにしてね。私の遺影」
「嫌だ……」
「ずっと言わなかったけど、晴もかなり分かりやすいよ。私、結構良くないんだよね」
「教えない。教えたくない。それにまだ方法なんていくらでもある。僕が小夏を絶対に死なせない! だからそんなこと言わないでくれ」
晴は耐えきれないように、私のことを強く抱きしめた。
離れがたい。
こんなにも大好きなのに、離れていく。
「いいんだよもう隠さなくて。晴だけで苦しい気持ちを抱え込まないでいいんだよ……晴の家のパソコンデスクの1番上。その引き出しに大事なものは全部入れといたから。その時がきたらお願いね。たまにでいい。皆に私がいた事、思い出して欲しいから」
「もう止めてくれ……僕たちはこれからもずっと一緒だろ」
「うん。一緒。私と晴は運命共同体。だからしっかりお願いしたからね。私もう少しなら頑張れるから。じゃあ、話すね。家族のこと」
私は、自分の家族のことを全て晴に話した。
ーー冬夜のことも。
出会いから別れまで全てを。
冬夜のことを自分がどれだけ愛していたのかも。
残酷なほど正直に、自分の本当の気持ちを話した。


