父の死を傷む暇もなく、小春が生まれた。
しかし、すくすく成長していく私たちの存在が、少しずつ彼らの心を解いてくれていた。
「冬夜。これからはピカードの分まで私たち二人で小夏と小春を守っていかなければね」
「はい母さん。僕がいるからどうか悲しまないで。父さんは母さんが笑っているのが好きでした」
「ありがとう、冬夜。あなたは永遠に、世界で一番の私たちの子供よ」
母は冬夜を抱きしめた。
「母さん、僕はずっとそばにいます」
冬夜はその頃には、もう薄々、自分の残り時間も、短くもないがそうそう長くはないことに気が付いていた。
しかし自分から病院へ行くなどと言う考えすら持たない環境で育った彼は、その体の痛みや異変を知りつつも隠し続け、どれだけの年月が過ぎても、甲斐甲斐しく私たちの面倒を見続けていた。
世間の関心から身を隠すように、私たちは北海道にあるとても静かな街の小さな家に移り、そこで多くの時を過ごしていた。
色んなことがもう少し落ち着いたら、父のお墓があるフランスに戻ることも決めていた。
そんなある雪の日、今度は冬夜が家から居なくなった。
どこを探しても痕跡さえ見つからなかった。
「冬夜もピカードもいない世界に、もうなんの意味もない……」
母は狂ってしまったように心を塞ぎがちになり、私や小春のことは目に入らないようだった。
家族はあっけなく終わってしまった。
その時私は12歳で、小春はまだ9歳だった。
母を親戚に託して、かつて東京で住んでいたマンションに移った。
東京の方が、なぜかあの家に居るよりもずっと、息がしやすかった。
ただ柔らかな小春の小さい手を決して離さないようにギュッと握った。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんはもう居ないの? お父さんと同じ所へ行ったの?」
「分からないの。でもひとつだけ分かることがあるよ。私たちが歌って声を届ければ、絶対に冬夜なら気づいてくれる」
「じゃあ、お姉ちゃん。私たちで歌おう! お兄ちゃんに見つけてもらえるように」
「そうだね」
小春が無邪気にお兄ちゃんと呼ぶ、冬夜のことを私は一度だってお兄ちゃんとは呼べなかった。
だって、冬夜は私の家族であり、他人でもあり、初恋の人でもあったからだ。
『小夏は特別な子だね。誰しも特別な力は持っているものだけど、その歌声はきっと誰かを救うよ。いつまでも大切にしてね』
『うんっ。小夏、ずっと大切に歌うから。だからきっと聞いてね』
『もちろんだよ。僕は君のそばにずっといる』
私の歌を届けたい人は、ずっと、冬夜だけだった。
冬夜は他人だけれど、お兄ちゃんで、物心ついた時から、愛しくて、優しくて。
ただの偶然でも、同じ髪と瞳の色をしているのが嬉しかった。
家族だけど、それでもやっぱり最初から、誰も代わりになれない、私だけの特別な人だったんだ。
しかし、すくすく成長していく私たちの存在が、少しずつ彼らの心を解いてくれていた。
「冬夜。これからはピカードの分まで私たち二人で小夏と小春を守っていかなければね」
「はい母さん。僕がいるからどうか悲しまないで。父さんは母さんが笑っているのが好きでした」
「ありがとう、冬夜。あなたは永遠に、世界で一番の私たちの子供よ」
母は冬夜を抱きしめた。
「母さん、僕はずっとそばにいます」
冬夜はその頃には、もう薄々、自分の残り時間も、短くもないがそうそう長くはないことに気が付いていた。
しかし自分から病院へ行くなどと言う考えすら持たない環境で育った彼は、その体の痛みや異変を知りつつも隠し続け、どれだけの年月が過ぎても、甲斐甲斐しく私たちの面倒を見続けていた。
世間の関心から身を隠すように、私たちは北海道にあるとても静かな街の小さな家に移り、そこで多くの時を過ごしていた。
色んなことがもう少し落ち着いたら、父のお墓があるフランスに戻ることも決めていた。
そんなある雪の日、今度は冬夜が家から居なくなった。
どこを探しても痕跡さえ見つからなかった。
「冬夜もピカードもいない世界に、もうなんの意味もない……」
母は狂ってしまったように心を塞ぎがちになり、私や小春のことは目に入らないようだった。
家族はあっけなく終わってしまった。
その時私は12歳で、小春はまだ9歳だった。
母を親戚に託して、かつて東京で住んでいたマンションに移った。
東京の方が、なぜかあの家に居るよりもずっと、息がしやすかった。
ただ柔らかな小春の小さい手を決して離さないようにギュッと握った。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんはもう居ないの? お父さんと同じ所へ行ったの?」
「分からないの。でもひとつだけ分かることがあるよ。私たちが歌って声を届ければ、絶対に冬夜なら気づいてくれる」
「じゃあ、お姉ちゃん。私たちで歌おう! お兄ちゃんに見つけてもらえるように」
「そうだね」
小春が無邪気にお兄ちゃんと呼ぶ、冬夜のことを私は一度だってお兄ちゃんとは呼べなかった。
だって、冬夜は私の家族であり、他人でもあり、初恋の人でもあったからだ。
『小夏は特別な子だね。誰しも特別な力は持っているものだけど、その歌声はきっと誰かを救うよ。いつまでも大切にしてね』
『うんっ。小夏、ずっと大切に歌うから。だからきっと聞いてね』
『もちろんだよ。僕は君のそばにずっといる』
私の歌を届けたい人は、ずっと、冬夜だけだった。
冬夜は他人だけれど、お兄ちゃんで、物心ついた時から、愛しくて、優しくて。
ただの偶然でも、同じ髪と瞳の色をしているのが嬉しかった。
家族だけど、それでもやっぱり最初から、誰も代わりになれない、私だけの特別な人だったんだ。


