キミのために一生分の恋を歌う② -last stage-

中へ入ってみると、そこは綺麗に整った晴らしい部屋だった。
キッチンにベッドに、ソファ、テーブルの上には仕事用の道具、クローゼットと、どこもこざっぱりと整頓されていた。
付け加えて言うことがあるなら、テーブルの上に陽菜さんの写真とお花が飾ってあったことと、あの時のバイオリンや私の載ってる雑誌などが置いてあり、それが晴の部屋だと証明しているみたいだった。

部屋のいろんな所から、いつも嗅いでる晴の匂いがして、私は少しほっとする。

「ソファにでも座ってて。とりあえずお茶入れるから」
「うん」

私は言われた通りに荷物を置いてソファへ座った。
何だか不思議な感じがする。
初めてきたのにとても落ち着くような、ドキドキするような。
ボーっとしていると、晴がマグカップを目の前にコトンと置いた。

「どうした? 具合悪いのか」
「ううん。ただ不思議な感じがして」
「そんなにか。もの珍しいものはないだろ」
「全部新鮮だよ。だけどほっともするの。不思議だね」
「ハハ、小夏の家に比べたらここは犬小屋みたいなもんだろ」
「そんなことないよ。すごく気に入った!」

晴は笑った。
そして、部屋の引き出しから何かを取りだし、私に手渡してくる。

「これ、合鍵だよね?」
「うん。こんな部屋で小夏が喜んでくれるなら幾らでも渡すよ。好きな時にいつ来てもいい」
「嬉しい……まるでホントにホントの彼女みたい」
「何、今まで実感なかったわけ?」

そんなことないけど……と言うと、晴が私のことを後ろから抱きしめるみたいにしてソファに座った。
私の頭の上に自分の顔を置いてまったりしてる。

「僕だって……付き合えたと思ったら、彼女はずっと入院してるし。寂しかった」
「ごめんね……」
「でもさこの間、小夏の病室で寝た時……なんかいつもより良く眠れて気持ちよかった。小夏に頭撫でれながら寝ちゃってさ。目が覚めたら、小夏が僕のこと優しい顔で見てて。こんな時間がずっと続けばいいって思った」
「私もだよ。晴と暮らしてたらこんな感じなのかなって思った。それに料理作ったり、一緒にお家で映画観たり、晴と一緒にもっと色んなことしたいし、してあげたいって」
「うん、だから小夏は必ずもっと元気になるんだ」

晴はぎゅうっと抱きしめたと思うと、そのまま私の体をヒョイっと持ち上げる。
そのままベッドに直行。私の服のボタンをすっと外していく。
まず上の服を脱がされ、下も。
下着が見えてしまうけど、とか思っているうちにもうブラも全て外れていた。
晴の顔が近づいてきて、髪の毛が頬にあたっているくらいに近い。色々、確実に手慣れている……。

「あの……晴さん……」
「なに」
「私、あの……」
「初めてじゃないだろ」
「待って。その、ね? 部屋も明るいままだし……」

あからさまに慌てていると、晴は吹き出した。
そして聴診器を取り出す。

「なにかされると思ったのか? 診察だよ。何度もやってるし誰にも邪魔されずにじっくり聴けるのも今くらいだし」
「何だあ……すっごいドキドキしたよぉ」
「まぁ、嘘。だいぶ下心だらけだ」
「え……」

そういうと晴は部屋の電気を消した。
何がどうなってるか分からない。

抱きしめられるだけで、電流が走るように痺れた。
触れられるだけで、声が漏れて、そこが熱くなった。
私が晴に触れる度に聞いた事のない晴の声も響いていた。
唇を重ねると、もっと欲しくなって我慢が効かない。
なのに、いちばん気持ちよくなったあとに晴はそっと離れた。

「晴、もっと。離れないで」
「ううん。ここまで。もう発作が出そう。それに、小夏のことを心から大切にしたいから。続きは小夏が心から元気になって笑えるようになった時に。ちゃんと約束するから」

晴は落ち着いた声でそれだけ言った。
だから今がいいのに、とは言えなかった。
晴だけが、私の未来を心から信じていてくれたから。

「約束して……」

普通の人たちが普通にしてること、私のせいで何も出来ない。
晴に満足を与えてあげられない。
私はまた涙を流した。

「大丈夫だよ。泣かないで小夏……」

晴も少し泣いていた。

だから何も言わずに、二人でただずっと抱きしめあう。
震えるような寂しさも、次第に互いの体温で温められていくうちに薄れていき、後には私たちの心が結ばれてひとつになれたような温かな気持ちだけが残っていた。