キミのために一生分の恋を歌う② -last stage-

「僕はずっと気になっていたことがあった」
「何?」
「小夏の、bihukaの歌声のことだ」
「私の声……?」

晴は頷き、こちらを真っ直ぐと見た。
私も晴のことを見つめ返す。
夏の熱をはらんだ風が私たちの間を通り抜けていった。

「もしかしたら、小夏の声が特別に響くのは喘息だからかもしれない。今まで病気であることは小夏にとって、悲しみや苦しみしかもたらさないものだった。けれど、その特別な声は小夏が病気だからこそもたらされたプレゼントなのかもしれないよ?」
「うそ……。病気なんて私からぜんぶを奪うものばかりだと思ってたのに」
「違うんだ。きっと小夏が小夏であるからこそ、得られるものもきっとあるんだ。それはこれからも増えていくんだ。僕が小夏の声を聴いたのは、この春にbihukaがSNSにアップし始めてからだけど。初期と比べても今は更に声が揺らいで聴こえる。小夏にとってそれは思ったような声が出せてないと思うかもしれない。それでも聴いている側からするとその揺らぎこそが心地よく感じる。1/f揺らぎってのは、調和と不調和が生み出すものなんだよ」
「そうだったんだ……この声が……だから、私だけの特別だったんだ……」

私は涙を流した。
そして強く強く思った。

「ああ、早くみんなの前で歌いたいな」
「みんなが小夏の歌声を待ってるよ」
「うん……私、病気になって、良かった。この病気だから晴と出会えた。この声をもっと大事にしたいと思えた。生きてることが幸せだって気づけた。あのね。私の大事な人、晴と同じくらい歌を届けたい人も何度も言ってたの。特別な声を大切にしなさいって」
「もしかしたらその人も、気付いてたのかもしれないね」

私は泣きながら頷いた。
晴は細くて長いその指で、流れた涙をすくってくれた。
私の痛みが、苦しみが、それすらも私の歌声になって、誰かの心を救えるなら。
こんなに幸せなことはない。