キミのために一生分の恋を歌う② -last stage-

モールの中に入ると、まずは本屋に行く。
晴は医学書見るかと思ったけど、普通の本屋さんには医学書までは中々置いてないぞと笑われる。
ふーんと言いつつ、晴と私は文庫のコーナーへ。

「晴は小説読むの?」
「好きだけど最近はあんまり読む時間はないかな」
「最近読んだのだと、何が好き?」
「芥川龍之介の『蜜柑』」
「ぷっ、短編じゃん」
「じゃあ、森鴎外の『高瀬舟』」
「また短編だ!」

短いけれど、どれも教科書に載るような名著で気持ちが温められるような余韻の残る作品ばかり。晴らしいって思った。
私は特に何も言わずにじーっと本を選んでいると、今度は晴から話しかけてきた。

「小夏はどれが好き?」
「本って言うのはね、勧められて読む物じゃないの。呼ばれた気がするから読むんだよ」
「音楽と同じだ」
「そう。『星がきれいなのは、見えないけれどどこかに花が1本あるからなんだ……』」
「ん? なにそれ」

私は本棚から『星の王子さま』を手に取り、晴に手渡す。

「肝心なものは目に見えない。けれどそれが遠くにあると信じられるだけでも力になるんだよ」
「ふぅん。有名なのに読んだことなかったな」
「つまりね。晴も自分だけの1本の花のような本探すんだよ! でもこの本は疲れてて短編しか読めないような晴にはちょうどいいかも」
「オススメはしないんじゃないの?」

だって、さっきあの人との夢に出てきた本だからなんて、言えるわけない。私は無視して続ける。

「私、ここも好き。『ぼくの星はたくさんの星の中に混じっている。だから、きみはどの星のことも好きになる……ぜんぶの星がきみの友だちになる』」
「まるでお別れみたいだね」
「だって王子さまとのお別れのシーンのセリフだもん。離れても寂しくないように励ましてくれてるんだね」
「……小夏がそんなに好きなら、読んでみようかな」
「うん! お願い、読んでみて。ゆっくりでいいから」

私が好きなもの、大切なものが晴の心に混ざっていく。
あの人との思い出と、晴がつながる。
晴が何を感じてくれるのかは分からないけれど、ひとつの印みたいにしてそれをやり遂げたいと思った。