キミのために一生分の恋を歌う② -last stage-

海の家に入ると、晴はカレーライスの大盛りで、私はオムライスとクリームソーダを注文した。
全部は食べられなくて、晴に半分は食べてもらっちゃったけど。
それでも海を見ながら晴と食べる食事は最高で、病院の食事よりは沢山食べられたし、何よりすごく美味しかった。

「毎日、ここで食べられたらいつか完食できそう」
「そりゃいいことを聞いた。ここから病院まで毎日運ぶかな」
「晴のバーカ! ここだから美味しいんだもん!」
「分かってるって」

下らないことを話して、笑っているのが幸せで。
こんなに好きなのが嬉しくて。
同じくらい、失ってしまうことが寂しくて。
でも今は晴のくれた言葉だけを信じていたい。

「晴、この後はモールの下見だよね」
「うん、ついでに小夏の読みたい本を探しに本屋さんも行こうか」
「いいね、最高!」
「映画も観る? bihukaが主題歌のやついま上映してるよ」
「何か、私がやりたいことばかりだけどいいの?」
「僕がやりたいことでもある。僕はbihukaのファンなの、忘れてない?」
「そっか、そうだった。ねぇ、その前にもう一度だけ、海みたい」
「いいよ、行こう」

今度は私と晴は、ちょっと海岸からは離れてしまうけど日陰の風がよく通る場所に移動し、静かに穏やかな気持ちでただ海を見ていた。
晴は時折よく分かんない難しそうな医学書を読んだり、私もメモ帳を取りだして歌詞を考えたりしていると、あっという間に1時間くらいが経った。

「そろそろここも日が照りつけてくる。移動するか」
「うん、ありがとうね。でも、やっぱり最後は……」

私はサンダルをぬぎすて、海へ向かって走った。

「小夏! 走るなって」
「やーだよ!!」
「本気で怒るぞ」
「じゃあ、晴が止めに来て」

晴は、一生懸命に海に入って私を止めてくれた。
私はできる限り水をかけて晴を阻み、暴れてやった。
晴もそのうち本気になって水をかけてきた。

「水、しょっぱいね! ていうか服濡れちゃった」
「知らん。着替えを買うしかないな」
「少しだから大丈夫。すぐ乾く。て言うかね、こうしてると私、身体が軽くてほんとになんでもないみたいなの。2人でずっとこうしてたいね」

晴は、何も言わずに優しい顔で頷いた。
解ってる。本当は。
進んだ時間はもう止まらないこと。

「ほら、そろそろ出るぞ。もし身体が冷えて熱でも出したら……」
「ドクターストップ、でしょ?」
「分かってるならもういい。満足したなら帰るぞ」

晴がカバンから上着を取り出してかけてくれた。
私たちは自然とまた手を繋いで、車に乗ってモールへと向かった。

そのモールは初めて来たけれど、とても大きなショッピングモールで、外には私が今度歌うステージがあった。
想像していたよりずっと大きくて、ステージは2階や3階からも見渡すことが出来る構造になっていた。

「沢山の人が来てくれるといいな」
「そうだな」
「晴も、また一緒にバイオリン弾く?」
「嫌だよ。たまにはファンとして楽しませてくれ」
「え〜」
「15日は当直をして明けてそのまま外来をやり、それから小夏のライブだ。今回ばかりは頭働かなくて失敗するぞ。それに……」

晴はスマホの画面を取り出し、私に見せてくる。
そこには抽選で当たったチケットが映し出されていた。

「ふふっ! 頑張って取ってくれたんだ」
「そうだよ。言っておくけど、僕だけじゃなくて、東条先生に兄さんたちや母さんと父さんの分も取ったんだからな」
「それは勢揃いだ。すごい」
「みんな、楽しみにしてる」
「うん、ありがとう。私、全力で歌うから。聴いていて」
「もちろん」

本当は震えるほど、怖い。
失敗したらどうしよう。
みんなが見てくれるのに悲しませたらどうしよう。
でもそんな気持ちが霞むほど、晴の気持ちが嬉しかった。