キミのために一生分の恋を歌う② -last stage-

目を覚ますとそこには東条先生が居て、点滴のスピードを調整していた。
私は酸素マスクと点滴など、沢山のものに繋がれてて動けない。
モニターの機械音だけが規則的に響いていた。

「小夏さん、目が覚めたね。良かった。調子はどう」
「大丈夫⋯⋯です……晴は?」
「ついさっきまで君の近くに居たんだけど、目が覚めたら君のことを逢坂大学病院へ移せるように荷物を取りに行ってるよ」
「そうですか……」
「君が運ばれてきた時、気管挿管する一歩手前だったからね。それに貧血も。全身状態が良くない証拠だ。君にはもう余力がない。立っているのがやっとで、歌うなんてもってのほか。本当は自分でよく分かっているはずだ。また次に大きい発作が起きたり、感染症にでもかかったら……晴からも聞いているよね? これからは設備がいい病院で治療に集中した方がいい。bihukaさん」

東条先生は敢えて、晴と陽菜さんのこと、そして私のことを歌手のbihukaだとすべて分かった上で、強い瞳でそう伝えてきた。

だから私も起き上がり、酸素マスクも勝手に外して応えた。

「東条先生、ご心配頂いてありがとうございます。でも、言う通りにはできません」

私は晴の彼女として、そして歌手のbihukaとして。ここでまだ終われない。

「君はまた……晴に同じ思いを繰り返させるつもりなのかい?」
「違います。晴は私の歌に生きる意味をもらったと言ってくれました。だからこそ今の私のありのままの姿を見てほしい、私は歌い続ける。どれだけ辛くても、苦しくてもいい。喪失や痛みを抱えても、それでもなおここは生きる価値がある世界なんだということを伝え続けたいから」
「なるほどね。君の原動力はそれなのか」
「私には命を懸けても思い続けたい大切な人がいるんですよ。今は2人も。だから東条先生、奇跡は起こせます。そしていつか先生にも私の歌を聴いて欲しいです」

先生は黙って頷いた。

「晴が戻ってきた時に安心できるようにもう少し酸素マスクは外さないで」

先生はいつもの優しい声で、酸素マスクを戻す。
私は頷いて、先生の目を見つめ返した。

私の歌を聴いてくれれば、すべて伝わるはずだから。
私の心は、全て音楽の中に宿っている。