キミのために一生分の恋を歌う② -last stage-

「晴、ごめんなさい⋯⋯怒ってるよね?」

そう声をかけても晴は何も言わずに、車のキーを入れて走り出す。
いつものように体の心配もしないし、診察もしない。
私、本当に晴のこと怒らせちゃったんだ。

「ごめんね⋯⋯」

意味のない謝罪ばかり繰り返しても無駄だよね。
空虚な沈黙が続く。

「次のデート、海でしょう。私、本当に楽しみにしてて⋯⋯こんなんじゃダメだってそればかり考えてて。晴のこと、困らせたかった訳じゃなくて⋯⋯」

晴はまだ喋ってくれないし、こっちを向いてさえくれない。

「私、ぜんぶ晴が初めてだから。デートも海も。もう後悔しないように楽しい思い出を絶対作りたくて」

すると、晴は急に路肩に車を停めた。
ハンドルに頭をつけて、私に顔を見せないようにしている。

「どうし⋯⋯」

どうしたの、と聞く前に晴の肩が震えてるのに気が付くのが早かった。
晴が、泣いてる。
陽菜さんのお墓の前でも隠すように泣いてたけど、今日は違くて。
少し声を漏らして、必死に堪えるようにあふれ出す涙を腕で拭いてる。

「沢山⋯⋯言いたいことが⋯⋯ある。どれだけ、僕に心配かけたら気が済むんだ、とか。でも、でもっ、一番はそれだよ!! 全部を諦めたような言い方をしないでくれ」

私の名前を何度も呼びながら、晴がギュッと身体を抱きしめてくれる。力が強すぎて苦しい。

「お願いだから。死に⋯⋯備えないでくれよ! 小夏、僕たちはこれからも何度だってデート出来るんだから」
「⋯⋯そんなの、わかんないよ。私の身体のことは、命のことだけは、わかんないんだよ」

晴が立派なお医者さんだって解ってる。
信じてる。
でも、この身体が、この時間がいつ終わるかはやっぱり分からないんだよ。神様にしか。
でも少しだけ私には聞こえるんだ。
もう、始まっている、終わりの音。

「ごめん⋯⋯」

病院に帰る。皆心配してる。とだけ晴は言って車を再び運転し始めた。
でも、晴の涙は止まらない。
時折、腕で擦るように涙を拭う。

『晴は泣くと機嫌とるの大変なんだからーー』

あの時の、晴のお母さんの言葉が浮かんできて。

「晴、申し訳ないけど私、全然元気なの。晴のこと考えると力が湧いてきて、100歳くらいまで生きちゃうかも。孫どころか、ひ孫まで見れちゃうよ」
「はは⋯⋯なんだそれ」
「だから、私を信じていて。晴はいつも笑ってて」