晴とのゲリラライブは大成功のうちに幕を収めた。
舞台の袖に戻ると、私は床に手をつきその場にしゃがみ込む。
直ぐに異変に気がついた晴がそばにきて身体を支えてくれる。

「小夏!!」
「本当に……ライブ……ゼェゼェ……成功して……よかったあーー」
「もう喋るな……発作が起きてる」

私を壁際に寄せて楽な姿勢で座らせる。
医者の顔に戻って、カバンをひっくり返す。
指に酸素を測る機械をつけて聴診器を取りだして聴診している。

「晴。大丈夫⋯⋯だよ……ゲホッゴホッゴホッ」
「お願いだからもう黙って! 呼吸に集中」
「……ごめん、ね」
「リリーバーを吸って」

吸入器を口にあてがわれ、2回ほど吸入する。

「92までしか上がってこない」
「……苦し……」
「90を切った。アドレナリンを注射する。少し痛いぞ」

黙って頷くと、晴は私の腕に迷いなく注射をうった。
そこでこちらの様子がおかしいことに気がついたお父さんとお母さんがやってくる。

「小夏ちゃん!! 大丈夫?」
「母さんたち、小夏が発作起こしてる。リリーバーでも改善しないからすぐ病院連れていきたい。手伝って」
「東条先生にすぐ電話するわ」
「俺が小夏さんを車で運ぶ。晴はそばで小夏さんを診てて」
「頼む。小夏、行くぞ」
「ごめ……ゼェゼェ……ね」

目の前が暗くかすんで、フワフワしてなんだか眠くなってきてしまって。
私は謝れたか分からないまま意識を手放した。
晴が大きな声でなにか喋っている気がしたけど、それも遠くに響いただけでよく聞き取れなかった。