たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

 病院に戻った二人を一番に迎えてくれたのは雛子だった。

「ごめんね、ヒナ。心配かけてごめん」

 まっすぐに駆け寄ってきて詩音を抱きしめた雛子の身体は震えていて、押し殺した嗚咽が響く。
 金居や山科、そして母親の千尋も、遠くから安堵したような表情で見守っているのが見えたから、蓮は小さく会釈した。
 

「悠太くんも、あたしも、あちこち探し回ったんだからね」

 涙声で、それでも怒ったような口調で言う雛子に、詩音は神妙な表情でうつむいた。

「うん、ごめん。悠太にもあとで謝らなきゃね」

「きっと怒られるよ。悠太くんも、すごく心配してたもん」

「うん、覚悟しとく」

 小さくうなずいた詩音をもう一度抱きしめて、雛子は涙を拭ってようやく少しだけ笑みを見せた。
 

 念のための診察を終えて、詩音は少し疲れた様子で部屋に戻ってきた。

「詩音、ご飯まだだよね。もらってこようか」

「ん……、それよりちょっと寝たい、かも。なんかすごく眠くて」

 ソファから立ち上がりかけた雛子に、詩音は欠伸をしながら首を振る。

「そっか、ちょっと疲れたのかもね。いいよ、ゆっくり休みな」

 詩音が眠るのなら、邪魔しても悪いからと立ち上がった蓮を見て、詩音は縋るような眼差しを向ける。 

「お願い、蓮くんもヒナも、まだここにいてくれる? 起きた時に誰もいないのが、怖いの」

「いいけど……」

 そろそろ面会時間も終わるはずだ。うなずきつつも戸惑った声を出した蓮をさえぎって、雛子が前に出た。

「大丈夫。詩音が起きるまでずっとここにいるから」

 安心させるようにそう言って、雛子が詩音をベッドへと誘導する。

「そばにいてね」

 不安気につぶやきながら蓮と雛子の顔を確認して、詩音は目を閉じた。そのまますうっと眠りに落ちるのを見て、やはり随分と疲れていたのだろうと思う。