その日、日曜日。
中学校になって二日の私は、部屋で宿題をしていた。
初めての宿題、「絶対に守る目標、中学校での自分」。
中学校での三年間、絶対に守る目標を決めて、中学校での理想の自分を言葉に表しなさいという
作文のような宿題だ。
取り組み始めて、(はや)二時間。
目標は、最初の十分で思いついた。
「内面を磨き品位を保ち、自分とも人とも真面目に向き合う」。
ずっと、人に頼りっぱなしで自分を育てようとしなかった。
だから、中学校を節目に自立して、それでも人と向き合える人になりたいと思った。
あと、上品で、内面から美しいと思われるような人になりたいと思った。
外見は、清潔にはしている。汚いとか、そういうことを言われるような見た目にはなっていないと思う。
でも、もともとの見た目は変えられない。
そこまでかわいい顔に生まれられなかった私は、せめて、内側(なか)だけでも、と必死で努力している。
その努力が実を結んでいるかは、わからないけど。

……あれ?
部屋の壁紙のあたりに、黒っぽい、灰色っぽい(もや)が見えた気がする。
汚れかな?
近寄って見てみようかとも思ったけど、今席を離れたらさぼってしまいそうだと思い、また宿題に向かい合う。
うーん、理想? 
目標にかいたことを、具体的に文字にするだけじゃダメかなぁ?
むー、と頭の中で考えてみる。
……駄目だぁ、思いつかない。
鉛筆を机の上に放り出し、目を向けるでもなくぼんやりと壁を見ようとした。

さっきより、靄が大きくなってる……。
さっきより黒が濃くなって、何か、違う世界につながっている裂け目のようにも見える。
粒がどこからか漂ってきて、裂け目を大きくしている。
そんなファンタジー、あるわけない。
でも、それならこの靄は何?
答えの見つからない自問自答を繰り返しながら、そのまま靄から目を離せなかった。
ふいに、集まってくる粒に白いものが見えた。
それを拍子に、今までの黒い靄が、一気に白く輝き始める。
そのまま白い粒がどんどん集まってきて、やがて人が一人通れるような大きさにまで広がった。
その瞬間。
今まで白熱電球くらいのぼんやりした輝きが、一気に太陽と同じような輝きに豹変した。
何っ、何……?
「まぶしい……」
あまりの光に、思わず目をつむる。