言葉を聞いて顔を上げれば、今度はぷいってそっぽ向かれた。
そっぽを向いたせいで見える左耳がピンク色にじんわり染まって、きゅうっと胸が締め付けられる。
素直じゃないなあ、不器用な人。
なんて、言われたくないかもしれないけれど。
「……木曜日、聴いてたの。ここで」
「……へえ、」
「聴きたい……ここ、居てもいい?」
うん、って頷かれた次の瞬間、彼の腕の中から音色が飛び出す。
ポップな始まり、ジャカジャカと鳴らしているピックを持った指と、器用に弦を抑える指。
目が離せなくなって、ギターと彼の横顔を交互に見ながら、彼の紡ぐ音楽に夢中になっていた。
カッコいい、って思うの、悔しいけど。
ギターを楽しそうに鳴らす菊池蒼伊は、どうしようもなくかっこいい。
彼の楽しいが伝染して、自然に口角が上がってしまう。彼の音楽は、そういう魅力がある。
踏み込んでしまった、
菊池蒼伊に関わってしまった。
もう、あとには戻れない。
♪~
始まりは一瞬で 世界は色づいていった
きみのいない世界には もう戻れない
まるで私の心を見透かされているようなフレーズに、息が止まる。
もしかして全部お見通しなのかもしれない。
まっすぐに透き通った水色の音楽。
彼の音楽は、いまだけ私の独り占め。なんて贅沢なんだろう。
菊池蒼伊が奏でる音楽が、やっぱり好きだ。そう思った。



