テンパるわたしを見てケラケラと笑う菊池蒼伊は、そのままモテるように私の膝にギターを置いて、慌ててわたしは腕で支える。
はい、って言われて手のひらにピックが落ちてきて、慌ててぎゅっと握りしめる。
彼を見ていただけだったから、ギターが思ったよりも大きくて、でも思ったより軽くて、傷つけるのも怖いし触り方もわからなくて、わたしは固まる。
「こわい、ねえ、ちょっと端っこ支えてて」
「ふは、」
「ちょっと、笑い事じゃないよ!初めて持ったんだから、アドバイスちゃんとしてよ」
「アドバイスも何も、普通に弾いてみればいいじゃん」
「普通に、ってなに、」
「それで、どこでもいいからぴって」
「ぴ、って、」
支えてよって言ったくせに、わたしの震えている手の甲を支えるように大きな手のひらに覆われるから、余計に緊張して、心臓が嫌な音を立てる。
こんなに近づいたら、心臓の音がばれてしまいそうで。
男慣れしてねーんだなと思われるのも超恥ずかしくて、はやくおさまってよ、って心の中でそればかり唱えている。
「……っく、」
「ちょっと、笑わないでよ!ぴって鳴らせって言ったじゃん!」
初めて鳴らしたギターの音は、全然きれいじゃなかった。
菊池蒼伊が手遊びみたいに鳴らす音は、わたしには出せない。
隣からおかしそうにけたけた笑う声が聞こえて、彼みたいにむっと眉間を寄せて見上げれば、もっと笑われた。
「センスないな、思ったより」
「ちょっと、失礼すぎるでしょ!わたしもそう思うけど!」
抱えていたギターを菊池蒼伊に返却する。
重なっていた手のひらも一緒に離れて、わたしの心臓はようやく落ち着きを取り戻した。
わたしが持つよりも1000倍、菊池蒼伊が持ってるほうがオニアイだ。
ギターだって、喜んでいるように見えるくらい。
慣れたように私と同じ弦をはじいた彼から奏でる音は、なんで同じ場所なのにと思うくらいきれいな音色だった。



