「イメージ、がね、違うっていうか」

「イメージ、」

「教室でしゃべってるの、全然見ないし。女子、嫌いそうだし」

「こっちの台詞だけど」

「へ、」

「男子嫌いそう」

「……偏見だね」

「お前もな」



イメージ最悪じゃん、
と言葉に零したら、「こっちの台詞な」と言われて、笑ってしまった。
わたしが笑ったら、菊池蒼伊も笑って、やっぱり偏見だったんだなと思った。



「わたし、そのギターの音好きだよ」

「へえ、弾けんの?」

「いや、触ったこともないけど」

「じゃあやってみれば」

「え、」



向こうがフェンスに寄りかかっていて、わたしは少し離れたところで突っ立っている。
対面した距離から詰まっていない2メートル。
その先にいた彼は、普通の顔して隣のスペースを手のひらで叩く。


「突っ立ってないで、こっち来れば」



真っ黒な瞳がわたしを映している。
その目に逆らえずに、衝動で首を縦に振った。


彼の音楽をこっそり屋上で聴いている割に、その曲名とかは詳しく知らない。
ただ、青春ど真ん中みたいなキラキラした音楽を唄っているのは、意外だなあとずっと思っていた。
けれど、べつに意外じゃないのかも。


ぶっきらぼうで、無口そうだけど、意外と喋るし、表情は思ったより変化する。
なんて言ったら、またむっと眉間に皺を寄せられそうだけれど。


促されるまま彼の隣に向かえば、なんともない顔をしながらギターに視線を落としてぽろぽろとギターの弦をはじいていた。

こんなにも近くで菊池蒼伊のギターを弾く姿を見るのは初めてだ。
黒いギターケースを背負って教室を出て行く姿ばかり、見たことがあったから。


隣に腰を下ろせば、彼の腕からギターが抜けて、ひょいっとわたしの前に差し出された。



「はい」

「はい、って言われても、なに、どうすればいいの」

「鳴らしてみれば」

「え、ちょっとテキトー過ぎない?どうやって持つの」

「目の前で見てたじゃん」