菊池蒼伊は全校生の男子を集めたら、かっこいい方だってことはあんまり男子が得意じゃないわたしでもわかる。
この顔面で、歌もうまかったら、そりゃさぞモテるんだろうなと思うけれど。あまりにも無口で女子と話してもいないから、なんかもったいない。
裏では実は、めちゃくちゃモテたりしているんだろうか。
「だって、」
「だって?」
「木曜日は、ここが開いてるんだもん」
そう言えば、ちょっとだけ表情が変わる。
あ、きっと少し驚いたって顔をしている。
無口で無表情だと思っていた彼の印象が、ちょっとずつ変わってしまう。
「知ってんの?」
「知ってるっていうか、木曜日はよくここにくるの」
「へえ、」
へえって。
返しの難しい曖昧な相槌を食らった。この人、会話するの難しい。
わたしが口をきゅっと閉じて眉間に皺がちょっとだけ寄ったのに気づいたのか、彼から会話を続けた。
「俺も」
「え?」
「木曜日は、よくここにくる」
女子とは違う、ごつごつした細長い指が、ボディをこんこん、とノックする。
視線が絡んで、なんかきまずくて同じタイミングで逸らした。
「そ、うなの?」
「会ったことねえな」
「ほんとに、タイミング綺麗にずれてたのかな」
「気づいてないだけでいたのかもな」
「でも、さすがに近くでギター聴こえたら気づくもん」
「たしかに」
それに、わたしは菊池蒼伊のバンドが練習する音を上で聴いていたから。
なんてことは言わないけれど。言ってしまったら、サボって菊池蒼伊の音楽を聴きに来てることがばれてしまうから。
屋上が開いていること自体、自分しか知らないと思っていた。
涼子にすら、言ったことないのに。
「……なんか、」
「ん?」
「よく、喋るんだね」
口にしてから、あ、思ったことそのまま言葉にしてしまった、と思った。
菊池蒼伊はきょとんとしたあと、眉間にムッと皺が寄って、わたしは慌てて首と手をぶんぶん横に振った。
じゃあなんだよ、って顔をしてじっとこっちを見られるから、今度は言葉をしっかり選ぼうと頭の中で彼の機嫌を損ねないような言葉を探す。



