特に会話を交わすことなく、ただ蒼伊が弾いてる曲を聴いているだけだった。
会話がない沈黙の時間でもそわそわしないし、歌声聴いてると、何かが満たされるような感じがする。
閉鎖されていない外の空間で彼の音はどこまで届いているのだろう。
夕方のチャイムがなった。
グラウンドで遊んでいる子供たちがパラパラと帰っていく。
「オニーサン、今日女の人といる!」
「めずらし!」
「彼女やん!」
先程までグラウンドで遊んでいただろう少年たちが蒼伊に駆け寄る。
よく来る、と言っていたから顔見知りなのかも。
蒼伊の方を見たら、「いつもこいつらいんの」と言葉が返ってきた。
「デート?」
「デート?」
「うるせえな、チャイムなったんだから早く帰れよ」
「彼女じゃん!」
「邪魔されたくないんだ!」
「ガキは帰って宿題してください」
「えー、今日は俺らに歌ってくれないの?
「まだ聴いてねえよオニーサンの曲!」
「あ、今日はあれ歌ってよ!こないだのアニメのヤツ!」
「俺もそれがいい!」
蒼伊は小学生の男の子たちに囲まれて面倒くさそうにあしらいながらも、ちゃんとリクエスト通り最近流行りのアニメの主題歌を歌う。
蒼伊の曲を聴く子供たちはさっきあんなに冷やかしていたのにずっと静かになって、楽しそうに音楽を聴く。
目を輝かせながらギターを弾く彼を見つめる、路上ライブのような状態。今まで自分が独占していた歌声は、彼らをこんなにも笑顔にする。



