「よく来るの?」

「たまに」

「ここで歌うの?」

「ここならうるさくしても怒られねえんだよ」

「たしかに、広いもんね」


滑り落ちた土手の横には一段だけ階段になっているような、椅子にもなるようなコンクリートがある。そこに座って、蒼伊はギターを取り出した。



「屋上に行くのも、ここに来るのも、なんかわかるかも」

「なにが?」

「なんか似てる、いろんな人が見えたり、広いなって思える感じとか。好きなんだよね、わたしも」




左側を見れば小学生くらいの子供たちが野球やサッカーをして遊んでいる。
後ろを振り向けば犬の散歩をしている人や、登下校の中学生もいて、川の反対側の土手にも同じような景色が広がる。
上を向けば、少しある雲が真っ白から染まっていくのが見える。

こういういろんな人がいろんなことをしているのを、ぼうっと見る時間が結構好き。
蒼伊もこういうところが好きなのかな。
音合わせをしている彼をみて、今日は何を歌うんだろう、待っていた。




♪~~


蒼伊はさっき聴かせてくれたバンドの曲を弾き始めた。

激しくアップテンポだったあの曲は、バンドの演奏で使うギターと違うし、ベースもドラムもないから。
同じテンポでかき鳴らしているのに、ギターの音色が柔らかくて、優しい歌詞に、蒼伊の声が乗るとまったく違うものに聞こえるから、不思議だ。


蒼伊のうたうときの表情は、別人に見える。
大人っぽく見えて、いつものイジワルしてくる蒼伊と同じ人だとは思えない。

目を瞑って喉で鳴らす高音も、ギターに落ちる伏せた瞳も、隣にいるから気づける、わかる。
屋上とは違う、ふたりきりではない空間で、ふたりきりでいるような感覚にさせられるから、この人は本当に。



「……かっこよくて、むかつく」


小さな声で呟けば、蒼伊がこっちを向いて。
聞こえなかったみたいでなに?って言ってきたけど、なんでもないと首を横に振った。