差し出された手に左手を伸ばせば、手のひらどうしが触れて、そのままくいっと引っ張られた。


「わ、ちょ、まって、こわ!」

「ちんたらちんたら降りるほうが転ぶぞ」

「怖い怖いほぼ滑ってるし!」

「引っ張ってやってんだから感謝しろ」

「強引すぎるでしょ!」




手を繋いだことよりもグイって引っ張られた恐怖が勝って、ゆっくり一歩ずつ降りていた私の足は早足になり駆け下るように下まで降りた。


「わ、」
「いって」



先に降りた蒼伊の背中に直撃した私は、思い切り背中に鼻をぶつけた。

そのとき手のひらどうしが離れて、手を繋いでいたことを思い出した。
手、繋いだわけじゃないんだけど。



「急に止まるから!」

「いや、止まるだろ降りきったら」

「わたしがそんな急ブレーキかけれると思う?」

「運動神経ないんだな」

「失礼な!」


わたしの頭がぶつかって、ぶつぶつ文句を言い名が多振り向いた蒼伊との距離が思ったより近くて。
さっき視線が合わなかった距離でぶつかった目は、どちらともなく黙って逸らした。


駆け降りた恐怖で心臓がひやひやしていたのに、なんだか違うひやひやになってしまう。
あれやこれやと、せわしなく動く心臓に文句を言いたい。

ドキドキとかしないし、慣れてないだけだし。
どうせ、蒼伊はなんとも思ってないんだから。

いちいち、蒼伊に反応しないでよ。