ヘッドホンだと、二人でいっしょに聴くことはできない。
このまま一曲フルで聴いていいの?と思いながら蒼伊のほうを見れば、視線に気づいた蒼伊がわたしを見下ろす。


「――――――」
「え?なんか言った?」
「――――――」



ヘッドホンから流れる音のせいで、蒼伊の声はちっとも届かない。
何も聞こえないよ、と首を振ってヘッドホンを外そうとしたら手のひらがヘッドホンをてっぺんから抑え込んで、外させてくれなかった。


「え、いただだ、」


ぐりぐりと頭のてっぺんをヘッドホンと一緒にされるから、その左手を見るやり外せば、蒼伊はまた笑って、


「ばあか」

「あ、今絶対バカって言ったでしょ!それはわかるからね?」

「―――――――」

「あ、全然わかんない」

「―――――――」

「あ、終わっちゃった。なんて言った?」

「なんでもねえよ」

「バカしかわからなかった」

「さすがだな」

「ちょっと」


赤いヘッドホンを外して、彼に返す。
元あった彼の首元に戻っていったヘッドホンは、やっぱり似合う。赤色が好きなのだろうか。



「激しいのに優しいうただった」

「あー、まあ確かに」

「アップテンポの曲が好きなの?」

「かっけーじゃん」

「かっこいい。けど、そっちよりも歌詞が好きだなって思った」

「へー、俺はあの曲のテンポ感が好き」

「アコギでも弾ける?」

「歌なら歌える。けどあの激しい感じはバンドの演奏じゃないと無理」

「じゃあ、うたって。蒼伊バージョンね」

「気が向けばね」

「気向かすもんわたしが」

「へえ、ガンバ」