昇降口を視界にとらえると、ひとはあまり多くなくて安心した。

すれ違う友達にバイバイしながら、自分の下駄箱に着くともうローファーを履き終えているギターの後姿が見えた。
反対方向を向いてヘッドホンをしている彼は私に気づいていない。そそくさと靴を履き替えて、そっと近づいた。



「なに聴いてるの?」


後ろから声をかけたけれど、返答なし。どれだけ大きな音で音楽を聴いているのだろう。
左肩を指でつつけば、ようやく気付いた彼はこちらを振り返った。



「おまたせ、」

「待ったわ」

「一緒に片付け手伝ってくれてもよかったんですけど」

「俺は一日ちゃんと作業したからいいんだよ」

「わたしだってけっこうやってたけど?」



先に歩き出した蒼伊の半歩後ろを追いかける。
外ではまだ部活をしている生徒がちらほらいるけれど、誰も私たちがふたりで歩いていることを見たりはしないだろう。

いつも屋上にいる夕方くらいの時間。
屋上から見るよりずっと遠く感じる空は、きっといつもと変わらない色をしているのだろう。



「ねえ、なに聴いてたの?」

「ふつーに、バンドの曲」

「自分の?」

「違う。インディーズ」

「インディーズ、」

「バンドのデビューって、2個あんの。インディーズレーベルとメジャーレーベル、どっちで出してるか。最初目指すのはインディーズで、メジャーに行けたら結構有名になれる」

「そうなんだ、知らなかった」

「まあ、インディーズで有名なバンドもいるけど。邦ロックが好きな人はインディーズもメジャーも関係なく聴く」

「へえ、聴いてた曲、あとでうたって」

「多分知らねえ曲だけど」

「じゃあ、先に蒼伊バージョン聴いちゃおうかな」

「いや、先に聴けば」

「え?」