「……気分次第」
「なにそれ、いまの気分は?」
「わかんねえよ」
「なんでよ、わたし今日ならいけるのに」
「部活さぼんの?」
「だってどうせ、文化祭準備の方が時間かかるもん。部活のほうが先に終わっちゃうと思う。今日は3時までだし」
剛くんのさっきの話を聞いてしまったから、屋上に行きたいなって思った。
夏休み忙しくて一度もいけなかった屋上に、蒼伊はいたなんて。そんなこと連絡とってたってひとことも言ってくれなかった。
メッセージのやり取りで、部活が忙しすぎることを話していたからかもしれない。
今日はバンドの練習で学校にきてるって知ってたのに、屋上に誘われもしなかったし、自分で行くこともできなかったし、蒼伊に会うこともできなかった。
「部活終ってるなら、わざわざ学校に残る必要ねえだろ」
「まあ、そうだけど」
「べつに屋上じゃなくてもいいだろ」
「どういうこと、」
「まあ、いいよ。空けといて」
「え、」
「暇なんだろ?」
「ひま、だけど」
それ以上蒼伊は何も言わなかった。
全然理解が追い付かないわたしのことは放っておいて、てくてく先を行くからついてくだけで、あっという間に学校についてしまった。
「作業終わったら下駄箱集合で」
「え、あ、うん」
教室に入る手前、耳元でぼそっと呟かれた言葉を拾って、わたしの心は少し騒がしくなる。
屋上じゃなくてもいいって、どこかに行くってことなのだろうか。
ふたりで?屋上ならだれにも見つからないけれど、一緒に学校を出れば見つける人もいるだろう。
不意に取り付けられた約束に、わたしの頭だけが全然追いついていなかった。



