7月の放課後は、日中ほどの厚さはないものの体育館はむしむしと暑い。
だから、屋上でちょっと涼しくなってきた生ぬるい風にあたるのが好きなのかもしれない。
蒸し暑い空間で火照った頬を手でパタパタと仰ぎながら、階段を一段ずつ上り、彼のいる屋上を目指す。
4階よりもさらに上。
屋上に近づくたびに、もう着いているだろう菊池蒼伊に最初にかける言葉を考えていた。
扉を開ける。夕方の西日は、まぶしくて顔をしかめるほどだ。
少し古い扉が音を立てて閉まると、ギターに向き合っている黒髪がこっちを向いた。
「よ」
「よ、」
先に声をかけてきたのは向こうだった。
同じように返せば、向こうの彼は私を見るなり少し笑う。
「なんでそんな険しい顔してんの?」
「え、眩しくて。そっちに、太陽あるから」
「あー。じゃあ後ろむいて後退すれば?」
「無理、転ぶよ」
「そんなどんくせーの」
「失礼な、運動神経は悪くない方だし」
「へー、想像つかねえ」
「失礼すぎるよね」
菊池蒼伊の方に向かっていけば、彼は私よりもわたしの持っているポーチに視線を移した。
約束通りお菓子を持ってきたけれど。そんなにおなかが空いているのか、この男は。
「甘いもの食べれる?」
「あんま好きじゃない」
「わたし、クッキーとチョコと飴しか持ってない」
「女子だな」
「女子ですけど?」
「ふは」
ポーチを彼に押し付ければ、可笑しそうに笑う。
この男、この一週間で私をいじることを覚えたらしい。
わたしがむすっと怒ったように見せるのが面白いのか、わたしの機嫌に反して楽しそうだ。



