一緒に降りるのはなんか気まずいから、先行っていいよって見送った。
あっという間に空の青が少なくなって、時間の経過を実感する。
階段を駆け下りて、体育館に戻れば、呆れた顔をして同期のマネージャーのちづにこつんとチョップを食らった。
「今日は遅かったじゃん、いつも何してんの?」
「さ、んぽ?」
「毎週それして楽しい?」
「楽しいよ、息抜き」
「息抜きね、たしかに体育館むさくるしいしね」
「ちづもたまにはサボっていいのに」
「わたしはここにいるのが一番息抜きだもん」
「息抜きっていうか、あれでしょ、坂東がいるから」
「バカ、声大きい!」
「可愛い乙女だね、ちづちゃん」
ちづが好きな人はこの男バスの同い年の坂東らしい。
1年生のときからずっと好きな一途な可愛い女の子だ。
普段サバサバしてるのに、坂東のことになると女の子になるのが可愛い。
坂東は全く気付いていなそうだけど。
「もー、ミサキも好きな人できたら絶対教えてよね」
「できたらね」
「絶対ね!?ミサキめっちゃ隠しそうだもん!」
「なんでよ、信用ないなあ」
その日の夜、クラスのグループから菊池蒼伊の名前を探して友達追加をした。
無言で追加してなにも喋らなくてもいいかな、と葛藤している間に、向こうからスタンプと一緒に『無言で追加すんな』とメッセージが届いた。
バンドの音漏れを聴いて、教室にいる姿しか知らなかった菊池蒼伊が、たった一日でメッセージをかわすような相手になってしまった。
はやく来週の木曜日にならないかな、なんて。
絶対菊池蒼伊に言わないけど、そんなことを思ってしまった。



