「……なんつー顔、してんの」
曲が終わって余韻に浸っていた私に、仏頂面に戻った顔がこっちを見ていた。
さっきまであんなに楽しそうに歌っていたのに、すん、としている。
こころがあったかいのに、なんか泣きそうで、音楽を聴いてこんな気持ちになるのが初めてでわからない、って顔なんだけど。それは、おそらく彼には伝わらない。
変な顔、って追加されてむっとすれば笑われた。
アオイのせいなのに、失礼な男だ。
「……初めて聴いた、いまの曲」
「あー、まあ、そうだろうな」
「一番好きかも、聴いたことある中で」
彼らの音楽は音漏れくらいでしか聞いたことないけれど。
オリジナルソングがどれだけあるかも、知らないのに。
なんでか、大好きな歌だな、って思った。
そう言えば、少し驚いたような表情を見せて、そのままギターに視線が落ちていく。
ボディを優しく撫でて、彼の真っ黒な瞳がこちらを向いた。
「……いつか、教えてやるよ」
「え、なにを?」
「この曲の名前、とか」
え、なんでもったいぶるの?
そう言えば、笑いながら首を横に振られた。
「今は言わない」
「なんでよ、一番好きって言ったのに」
「うん、だから言わない」
「意味わかんない」
「わからなくていいよ、ミサキは」
ギターをケースにしまって、彼は立ち上がる。
呼んだこともないくせに、そんなフツウの顔して私の名前を呼ばないで欲しい。
心臓に悪いから、って。絶対言わないけど。



