Thirty’s

そんな事態を避けるため、私たちは午前中いっぱい電話を掛け続け、合間に目の前の書類を片づけているうちに、気が付けば昼休みになっていた。


私のアシスタントである二期下の河野茉莉(かわのまり)と連れ立って省内食堂に向かっていると


「加奈ちゃん。」


と私を呼ぶ声がした。


振り返るまでもなく、その声の主がわかった私は笑顔を張り付けると


「山本(やまもと)秘書官、お疲れ様です。」


そう声を掛ける。


「だからさぁ、なんで大学の先輩に対して、そんなよそよそしい呼び方をして来るのかなぁ?」


ニヤつきながら、そんなことを言って来る男に


「一係長に過ぎない私が、大臣秘書官を学生時代のようにお呼び出来るはずがないって、何度も申し上げているはずです。」


内心のうんざりを押し隠して、あくまでにこやかに答える。


「俺がいいって言ってるんだから。」


「そうは参りません。周りの目もありますから。」


「固いな、相変わらず。まぁいいや、飯行くんだろ?」


「はい。」


「じゃ、一緒に行こうぜ。」


「よろしいんですか?大臣と一緒に召し上がらなくて。」


「親父のお守りは事務秘書官たちに任せときゃいいんだよ。だいたいあんなおっさんたちと飯食うより、加奈ちゃんや河野ちゃんと食った方がいいに決まってるだろう。」


「わかりました、ではお供させていただきます。」


私が答えると


「そうこなくっちゃ。」


秘書官は上機嫌で歩き出す。その後ろで、茉莉と一瞬顔を見合わせてため息を吐くと、後に続いた。