Thirty’s

「じゃ、悠が首を長くして待ってるから、乗ってくれよ。」


「はい。」


先輩に促されて、翼くんが助手席のチャイルドシートに、私たちが後部座席に収まると、車はスタ-トする。


「先輩、今日はお休みだったんですね。せっかくの家族団欒をお邪魔しちゃって、すみません。」


「いや、ホントは出勤だったんだけど、取材先との絡みで急遽休みになったんだ。前からわかっていたら、わざわざウチまで来てもらわなくても、悠を出掛けさせられたんだけど、悪かったな。」


「とんでもありません。」


高校の一年先輩であるだけでなく、私たちにとっては甲子園のヒーロ-だった白鳥さん。もう一つ言えば、私にとってはかつての憧れの存在でもある。もちろん今は親友の旦那さんであり、特別な感情なんてないけど、でもやっぱり今でも眩しい存在で、正直ちょっと遠慮がある。


「そう言えば、高校野球の担当に変わられたんですよね。どうでした、久しぶりの甲子園は?」


由夏が尋ねると


「プロ野球担当の時も、甲子園には何度も取材に行ったが、やっぱり全然雰囲気が違うな。懐かしかったし、なんかいろいろ感情移入してしまうことも多くて。記者としちゃ、あんまり褒められたことではないんだが、でも楽しかったし、感動することも多かった。俺はやっぱり高校野球が好きだ、改めてそう思ったよ。」


答えた先輩の言葉には実感がこもっていた。