Thirty’s

「加奈?」


喜んでくれると思っていたから、その加奈の反応が意外で、俺は思わず訝しげに彼女の顔を覗き込んでしまう。


「えっ?」


「どうした?」


ハッとしたように俺を見た加奈は


「ううん、なんでもない。それより、本社に異動なんて凄いじゃない。」


そう言って笑顔を浮かべる。


「そうかな?」


「そうだよ。」


「加奈にそう言ってもらえると、やっぱり嬉しいな。」


「どこの部署になりそうなの?」


「それはまだわからないんだ。」


「そっか。でも本当によかったね。早速お祝いしないと。」


「まだ早いよ、正式の辞令が出たわけじゃないし。」


「じゃ、決まったら、美味しいものを食べに行こうよ。ごちそうするよ。」


「ありがとう。」


「それにさ、GWの予定も立てないとね。」


「行きたいとこある?」


「どこでもいい。だって総一郎とお出掛けなんて久しぶりだもん。」


「ごめん・・・。」


「えっ、謝らないでよ。そんなつもりで言ったんじゃないし、とにかく楽しみ。」


「そうだね。」


そんなことを言い合っていた俺たちは、それからしばし寄り添う時間を楽しんでいたけど


「う~ん、名残惜しいけど、明日も仕事だからなぁ・・・お風呂入って来る。」


加奈が本当に残念そうな表情で言った。


「一緒に入ろうか?」


俺が冗談めかして言ってみると


「是非そうしたいけど、でもそしたらお風呂だけじゃ済まなくなりそうだし。」


加奈がすました顔で答える。


「もちろん、済ますつもりはないよ。」


「でしょ?だったら今日は我慢だ。」


「わかった、お楽しみはGWまで取っておくことにしよう。覚悟しとけよ。」


「何よ、覚悟って?」


そんな会話を交わして笑い合うと、加奈は立ち上がり、バスル-ムに向かって行く。その後ろ姿を見送りながら、でも俺は異動の話をした時に、加奈が一瞬表情を曇らせたことが心の中で引っかかっていた。