Thirty’s

(まさかな・・・。)


そんな自分の思考を振り払うように、頭を振った俺だったが、ふと気付くと、我が家のマンションが見えて来た。部屋に入ると、中は暗く、加奈はまだ帰って来ていなかった。


(でも、今日はそろそろ帰って来るかな?)


今日は法案成立の日だった。打ち上げがあるとは聞いていたが、省内で済ませると言っていたから、それほど遅くはならないはずだ。でもその後、二次会なんて話も出てくるかもしれないし、そうなると「私はこれで失礼します」とはなかなか言えない職場らしい。


「官僚の世界は、まだまだガチガチの年功序列だからね。」


以前、加奈が苦笑交じりに言っていたことがある。リビングのソファに腰を下ろした俺は、スマホを取り出すと


『まだ、役所にいる?』


とLINEを加奈に送る。すると、すぐに既読が付き


『ううん、もう電車の中。30分もすれば帰れるよ。』


返信が来た。


『よかった、僕は今、家に着いた。』


『本当?じゃ、待ってて。総一郎も今日でお仕事、一段落したんでしょ?お互いのお疲れ様会で、ちょっと呑もうよ。』


『大丈夫?だいぶ吞まされてるんじゃないの?』


『大丈夫。今日はこうなるんじゃないかと思って、セーブしたから。』


『そっか。じゃ待ってるから、気を付けて帰って来て。』


『うん。』


よっしゃ!心も軽く、俺は着替えに向かった。