Thirty’s

◇ ◇ 

「選手入場。」


場内アナウンスの声が、TVから流れて来る。


「始まるよ。」


「パパ、映るかなぁ?」


「パパは出るわけじゃないから、映るわけないじゃないの。」


四月を一週間後に控えた日曜日の朝。朝食を終えたばかりの食卓では、長男の翼の無邪気な言葉を、長女の舞がお姉さんぶって否定している。そのやり取りがおかしくて、私は思わず笑ってしまう。


「そんなのわかんないじゃん。だってパパは、甲子園に出たことがあるって、ママが言ってたもん。」


「バカねぇ、だからそれは昔の話でしょ?」


「ツバくん。お姉ちゃんの言う通り、パパは今は記者さんだから、もう出られないのよ。」


姉にいなされて、むくれている翼がさすがに可哀想になった私は、笑顔で彼に言い聞かせる。


「なんだぁ。」


ガッカリする長男に


「でも、あの時のパパは本当にカッコ良かったんだよ。」


私が続けると


「うん、ビデオで見たもん。僕も大きくなったら、絶対に甲子園に出て優勝するんだ。」


一転、翼は目を輝かせる。