その日の仕事を終え、私が庁舎を出た時には、時計の針は夜10時を回っていた。
(疲れたな・・・。)
思わず、息が漏れる。でも今日はまだ早い方だ。振り返れば、庁舎にはまだいくつもの灯りが点いている。ここでは、これが日常だった。
重くなった足を引きずるように駅へ向かい始めた、その時だった。
「お疲れ様です。」
という声が掛かった。
ハッとその声のした方に視線を送った私は、次の瞬間、思わず目を疑った。そこに立っていた女性を私は知っている。だけど、ここで出会うはずはなく、また決して親しいとも言えない人だった。
「噂ではお聞きしてましたけど、本当にこんな時間までお仕事されてるんですね。とても『働き方改革』を推奨しているお役所とは思えませんね。」
そんな皮肉気な言葉を私に浴びせながら、その女性は近付いて来た。
「ご無沙汰しております、先輩。」
そう言って、頭を下げて来た。
「どうしたの?こんな時間に、こんな所で・・・。」
戸惑いを隠せないまま尋ねる私に、彼女は静かに答えた。
「もちろん先輩をお待ちしてたんです、お願いしたいことがありまして。」
そう言って、笑顔を浮かべる。
「お願い?私に?」
「はい。」
彼女は頷いた。
「単刀直入に申し上げます。」
ほんの一拍置いて、彼女は静かに続けた。
「そろそろソウくんを返して下さい。」
そう言って、真っすぐに私を見る。
「えっ?」
一瞬、意味がわからなかった。
「もうお気付きですよね?あなたとじゃソウくんは幸せになれないって。」
胸が音を立てた。
「彼の横にいるべきなのは、この私なんです。ソウくんには私が必要なんです、そしてもちろん私にも、彼が必要なんです。そんなことはわかり切っていたはずなのに、私は彼を手放してしまった。だから自業自得と、これまでは我慢して来た。だけど、もう限界。これ以上、見ていられないの。」
「・・・。」
「彼の優しさに付け込むのはもう止めて下さい。彼を解放してあげて!」
そう言って、彼女は私を射抜くように見た。
(疲れたな・・・。)
思わず、息が漏れる。でも今日はまだ早い方だ。振り返れば、庁舎にはまだいくつもの灯りが点いている。ここでは、これが日常だった。
重くなった足を引きずるように駅へ向かい始めた、その時だった。
「お疲れ様です。」
という声が掛かった。
ハッとその声のした方に視線を送った私は、次の瞬間、思わず目を疑った。そこに立っていた女性を私は知っている。だけど、ここで出会うはずはなく、また決して親しいとも言えない人だった。
「噂ではお聞きしてましたけど、本当にこんな時間までお仕事されてるんですね。とても『働き方改革』を推奨しているお役所とは思えませんね。」
そんな皮肉気な言葉を私に浴びせながら、その女性は近付いて来た。
「ご無沙汰しております、先輩。」
そう言って、頭を下げて来た。
「どうしたの?こんな時間に、こんな所で・・・。」
戸惑いを隠せないまま尋ねる私に、彼女は静かに答えた。
「もちろん先輩をお待ちしてたんです、お願いしたいことがありまして。」
そう言って、笑顔を浮かべる。
「お願い?私に?」
「はい。」
彼女は頷いた。
「単刀直入に申し上げます。」
ほんの一拍置いて、彼女は静かに続けた。
「そろそろソウくんを返して下さい。」
そう言って、真っすぐに私を見る。
「えっ?」
一瞬、意味がわからなかった。
「もうお気付きですよね?あなたとじゃソウくんは幸せになれないって。」
胸が音を立てた。
「彼の横にいるべきなのは、この私なんです。ソウくんには私が必要なんです、そしてもちろん私にも、彼が必要なんです。そんなことはわかり切っていたはずなのに、私は彼を手放してしまった。だから自業自得と、これまでは我慢して来た。だけど、もう限界。これ以上、見ていられないの。」
「・・・。」
「彼の優しさに付け込むのはもう止めて下さい。彼を解放してあげて!」
そう言って、彼女は私を射抜くように見た。


