凶器の塔に肘をついて、祐輔がコンビニのおにぎりを袋から出すと、胸がきゅうっとした。
 ノリと鮭とローソンのお米の匂いを嗅ぐと、どうしてだか故郷の田んぼで稲穂が黄金色に実りふさふさと風で優しい音を鳴らす、あの光景を思い出す。

 板張りの地面に、パンツが丸見えになるのも気にせずしゃがみ込むと、やっさんが脱ぎっぱなしにして行ったデニムを拾って、ゆっくりと、指先の所作が美しく見えるように気をつけながら畳んだ。

 私は丁寧に生きることが出来ないから。
 せめて、大切なものに触れる時は、優雅に儚い命が舞うように、と。
 だって、いつ死んでしまうかもわからない。
 今日かも、一週間後かも、もしかしたら昨日死んでいたかも。

 でも、今、フリスクまとめて10個口に頬張って、デニムの埃をはらっているから、私は幽霊じゃなくって良かったわ、と安心する。

「ねえ、祐輔って虫に詳しい?」
「はあ?なんで虫なの。男子だからな、子供ん頃は図鑑とかよく見てたけど」
「一番好きな虫って、なあに?」
「そもそも虫が好きじゃねえよ、俺。生き物ならカバが好き」
「へえ、意外だ。私はカバ、怖いけどな」
「ミサさあ、がさつなんだからミニスカート履くのやめれば?」
「何言ってんの。そこにいるのが祐輔じゃなかったら、膝ついて見えないようにしてるよ、カーバ」

 この古着屋さんにはじめて来たのは、まだ祐輔と知り合ったばかりの頃だ。
 つまりは2年ほど前。
 一緒に飲みに行く約束をしていたはずが、合流して真っすぐ連れて来られたのがここだった。

 取り置きをお願いしていた服の支払い期限日なのだと言って、こともあろうにその場で私に2万を払わせた。