私が、このチューリップハットをはじめて身につけて、安恵さんのところに行った理由は、単純な話しで。
 ううん、逆に、今までなんでそうしなかったのか、…の方が、大切で。

 私はちっとも気がついていなかったの。
 帽子の癖にそれなりのお値段のするコレを、安恵さんの店へと祐輔に連れられて訪れるたびに、まだ売れてないんだ、なんてそれとなく確認してたことの意味を。

 だって、酔っ払って一度寝ただけのひとを好きだなんて、ダサいじゃん。
 
 きっとコーディネートは間違えていて、手持ちの服にはちっとも似合わないとわかってはいたんだけど。
 ただ、たださ、可愛いって、言われたかった。
 安恵さんに、可愛い女の子だと思われたかったの、私。

 冬になったらもう遅い。
 寒くなったら、虫はもう鳴かない。
 はやくしなくちゃ。
 でも、抱き締めてもらえなかったら?
 二度めがなかったら。

 そしたら祐輔と帰ろうと決めた私は、最低なのかな、ばちがあたりますか、私は汚れた。
 安恵さんを好きになって、汚れた大人になったんだ。

 ねえ、あなたが汚した私を、ちゃんと見て。

 本当の好きじゃ、なくてもいいから。

 聞こえますか、安恵さん。



 「あ、ねえ、安恵さん。好きな虫って、いますか?」

 来年の秋、私はどこで何をしてるかな。
 まだ、生きていますか。
 誰の腕の中で、やかましく鳴いて夜を過ごしているの。

 秋はきっと、あなたを想うね。
 何度巡ったとしても、離れても。
 会えなくても。
 忘れても。
 声を枯らし、喉を裂いて、必死で真っ赤な息を吐くよ、私。