ぽけっと私が色ぼけをしている間に、祐輔が外の看板に立てかけるボードに『お買い物の方、一階バーの方にてお声がけ下さい』と白いチョークで書いて、余った部分に緑のチョークで下手くそなカメレオンのイラストを描いた。
なんだ、カバが好きだと言ってたじゃないの、実はカメレオンがいいのか。
「あ、ふふふ、ミサちゃん、この帽子」
「はい!懐かしいでしょ?私がはじめて、このお店で購入した帽子です!」
「あんなに気に入ってたみたいなのに、ちっともかぶって来ないから。誰かにあげちゃったのかと思ってたわ」
「はじめて見た時から、大好きです。今でも、もちろん、大好きですよ!」
「ありがとう、そんなに好きでいてくれる持ち主の元に行けて、この子は幸せね」
やっさんの横に祐輔が立つと、手慣れたやりとりが視線すら必要とせずテキパキと済んでしまう。
ドアの前から一歩避けたやっさんが、しわくちゃな革のライダースの浅いポケットから、一階のバーの鍵を出して祐輔の手のひらにポトリと落とした。



