立ち上がって、やっさんのデニムをテーブル型のショーケースの上に置くと、ついでに中を覗き込む。
 以前見た時と、そこに飾られている物たちはそれほど変わってはいなかったけれど、おおぶりのブローチに目がとまる。

 きっと、イミテーションのダイヤだ、だって私が可愛いと思うものなのだから。

 はっきり言って私は古着にもヴィンテージにも洋服にも興味がないし知識もない。
 だけど、やっさんのお店は大好きだ。
 なんと言うか、一貫性がない、ううん?統一感がない、か。

 すごく貴重らしいものから、素敵だったから買って来たんだ、店にあったら嬉しいからさ、なんてリサイクルショップで300円くらいで手に入れて来たエプロンワンピースなんかまで、色々ごちゃごちゃ置いてある。

 まるで子供のおもちゃ箱って感じで、ちんぷんかんぷんでも意味不明でも、許されてしまう空間だ。

「お、階段の音、さて丁か半か」
「それ、丁も半も、当たりとか外れとか、来るまでわかんないから使い方変だよ」
「そーなの?まあでも、客をハズレって言ったらダメだろ」
「あのね、祐輔、私が好きな虫はクツワムシ」
「ん?あ、いらっしゃいませ、って、当たりじゃん!」
「お帰りなさい、やっさん、ランチはどうでした?」
「ただいま、お留守番、ありがとうね。ミサちゃんにはお土産があるのよ」
「俺にはないわけ?」
「下、開けるから、まずは祐輔はつけを払え、わかったか」

 やっぱり美貌の店主が戻ると、待ってましたとばかりに売り物もインテリアも掃除用具も灰皿もゴミ箱も何もかもが生き返ったようにキラキラと輝く。

 例え外が曇り空でも、世界が排気ガスで埋め尽くされていようとも、ここだけはぱあっと華やかで清浄で天国みたいだ。