キリっとした細くて形の良い眉のすぐ下で、切れ長の二重の瞳の端に皺が数本寄っていた。
 とんがりコーンみたいでパクッと口に入れたくなってしまうツンと高い鼻を人差し指で搔きながら、美しい赤珊瑚色のビスケット一枚分の唇、の、奥、から、飛び出したの、は。
 うっとりするような、穏やかなバリトンボイス。

 その日、私はやっさんのワインバーで4万円分飲んで、全てを祐輔に支払わせた。

 ー ワインの銘柄なんか詳しくもないし、気にしたこともないし、味は好きじゃないし、酔えたらいい。
 そんな私に、やっさんは大切なお客様を迎えるようにして、まるで同伴で客が連れて行くお高いレストランバーのソムリエみたいにワインをグラスに注いでくれた。

「オニヤンマだな」
「え?」
「だから、好きな虫の話」
「ああ、うん、…なんか、っぽいね、祐輔って感じ。オニヤンマ、カッコいいもんね」
「え、俺がカッコいいってこと?」
「アホなの?」
「言ったじゃん、カッコいいって。っぽいって」
「そうですねそうですねカッコいいですね」
「んで、ミサは?ってか、なんで好きな虫?」
「んーん、ほら、秋だからさ。東京では、虫の声が聴こえないね」

 無理がある誤魔化し方になってしまったけれど、おむすびを食べ終えてパンの袋をバリっと開封している祐輔は、特に気にしてはいないようだ。

 どうして、好きな虫の話をしようだなんて思ったのだろう。
 やっさんの好きなものだったら、それこそ虫どころか好みのボールペンのペン先の種類ですらも知りたい私だけれど。
 意味無い話、しちゃうのって、もしかしたら祐輔だからかもしれないな。
 楽ちんだからさ、この男。

 誰にも知られたくない癖も、失態も、ひどい顔も、恥ずかしい時間も、何でも見せられる。
 だって、祐輔が私にそう言う風にするから。