困った顔をしておちゃめな素振りで首を傾げたやっさんの前で、そりゃあもう情けなくみっともなく、祐輔は私にペコペコと頭を下げては足りない分を貸してくれと強請り、突っぱねるとさらに食い下がり、とにかくしつこかった。

 途中でもうへとへとになってしまった私の様子に気が付いたやっさんが、油性マジックを差し出して、ウィンクしてくれた。

 これはもう、この店の店主もグルだったのだ、と絶望しながらも、仮にもギタリストを名乗り日々スタジオ練にライヴに曲作りにと励んでいるらしい祐輔の手の甲に『4万ミサ様に献上』と書いて、財布をバッグから取り出したあの日。

 何故4万か、それは慰謝料分を足したからだ。

 私は、デートに誘われて、古着にもインディーズバンドにも興味がないのに、わざわざこの街までやって来たのだ。
 それが、店ぐるみで客と組んで、世間知らずの女から2万せしめるだなんて、傷つくに決まっているではないか。

 下唇を噛んでいる私の頭に、ぽすんと何かが乗っかったと思ったら、目の前がカラフルになった。

 そうか、帽子、これ、帽子をかぶせられたんだ、とわかって、慌てて取り去った。
 視界を奪って、またもやひどい目に合わせる準備でもはじめるんじゃないの、ってビビッていたのと、暴れて叫んで店をぐちゃぐちゃにしてやる!!って憤りで爆発しそうな気持ちとで、乱暴にむしり取ったそれは、なんとも可愛らしいレトロな柄の生地を幾つも丁寧に縫い合わせて作られているパッチワークのチューリップハットだった。

「悪かったわね、君は祐輔の彼女じゃなかったのね」
「!?」

 低い声が、可愛らしい響きをかろうじて含み、まるで異国の王子様の唱える呪文のように耳に届いた。
 なんのこっちゃだろう、そりゃそうだ、だって、なんのこっちゃって言いたかったんだから、私。