わたし、星宮 姫乃(ほしみや ひなの)は普通のJKだった。
「行ってくるね」

お母さんに頼まれた買い出しをするために家を出る。
今日からここ、港区での生活が始まった。

暖かくて、ちょっとジメジメする天気。
6月の梅雨、夕日が沈み始めて薄暗くなる5時半過ぎ。
私は呑気に歩いてスーパーに向かう。

ここに、コンビニあるんだ……

初めての街で少しづつも理解をしていく。
歩いて数十分、たどり着いたスーパーに入る。カゴを片手に持ち、スマホをポケットから取り出す。
「えっと……」
メモに書いたリストを見ながらカゴに入れる。


「ありがとうございましたー」
無事に買い出しも終わった。エコバッグにものを詰めて外に出る。辺りはさっきより暗くなっていて、一番星が光り輝いていた。
「えっと、こっちか。」
まだ馴染めない。だって今日初めて来た街だし。
私は細い裏路地を渡って家に帰る。

「君ー、初めて見る顔だね」
突然声をかけられた私は肩を震わせて足を止める。
「え、可愛ーじゃん。」
近づく足音、遠くでなるエンジン音。
少し怖くなった私は無言で去ろうと足を早める。
「ちょ、待ってよ!」
右手首を掴まれた途端、怖さのあまりに足が震えた。
叫びたくなった。でも、声も出ない。

〝港区は治安悪いよ〟

引越し前に仲良かった友人に言われた言葉を思い出した。本当に、治安悪すぎる。
「は、離してくださいっ!」
こうなるなら、ここの道通らなきゃ良かった。
「じゃぁ、俺たちと遊ぼうよ」
3人の不良。近くには、バイクと金属バット。
もし、抵抗したら何をされるか分からない。
もう、警察でも、地域の人でも、誰でもいい。

助けて…

私は心の中でそう呟いて目を瞑った。
「お前ら、何してんの」
低い声、鋭い言葉。
「はぁ?」
目を開けると、そこには学ランを着る男の人が腕を組んで立っていた。
「女に手ぇ出すなんて、最低(クズ)男だな」
「なっ!」
近づくパトカーのサイレンの音。
「うわ、サツが来る!お前ら行くぞ!」
その言葉で解散する。

な、何とかなった……?
ふと、視線を送ると無表情で近づいてくる彼。
「……誰?」