「絵菜、まって」
「むり探しに行くーーっむぐ…っ!?」
すぐに立ち上がって教室を出ていこうとしたわたしを、心寧は嗜めるような柔らかい声と共にわたしの口へと卵焼きを放り込んだ。
急なことに黙ってそのまま咀嚼する。じんわりと甘さが口内に広がって、慌てていた心も少しずつ落ち着いていった。
「美味しい?」
「ほいひい……」
「絵菜は推しのことになると一直線だからねえ、たぶん…ていうか絶対お昼ご飯食べ損ねるよ?」
「うぐ、」
5限目お腹空いちゃうよ?とわたしを諭す声に押し黙る。
確かにこのままお昼を食べずに教室を出ていけば、5限目にお腹が鳴るのは確実だろう。そしてめちゃくちゃ恥ずかしいのだ。これは経験談でもある。
暫くの間、ぐぬぬと頭のなかで葛藤した。天秤がぐらぐらとゆれる。
はやくカイトくんを探したいが、お昼はお昼で大切だ。
「……食べてから行くね」
ギギギとお昼に傾いた結果。
うん、と嬉しそうに弾む親友の声が降る。
もしかしてただわたしと食べたかっただけなのでは、と都合の良い妄想を添えておいた。



