「あ、あの、いいですか!力は正しく使うものであって、私的な感情で――」
「――そこまでだ」
「え…?」
体育館に大きくひびく凛とした声を聞いて、思わず入り口のほうを振り返る。
そのすきをねらってなぐりかかってきた男のこぶしをいなすと、私の周りをかこむ男たちのすきまから、体育館の入り口に立つ男の姿が見えた。
凛としたたたずまいに、ストレートの黒髪、Yシャツごと腕まくりした学ラン。
「1年ども。ありあまったその体力は、有象無象じゃなくて俺にぶつけろ」
「あぁ?なんだぁ、てめ――ぇげッ!?」
「「!?」」
ゆっくりこちらに歩いてくる彼は、つっかかった男をすばやい裏拳でたおして、なにごともなかったように歩き続ける。
どよめく周りの男たちの様子を見るに、彼の裏拳が見えなかった人もいるようだった。
信じられないような顔で彼になぐりかかっては、反撃されてたおれていく男たちが状況を理解してけわしい顔つきになったとき。



