握られた手に、鼓動がいつもより早くなるのを感じる。
このドキドキは、大崎くんの時とは全然違う。
ときめきでもない、緊張でもない。
なんだろうこれは。罪悪感だろうか。
でもなぜか、嫌ではなかった。
そんなことを思いながら、進藤くんと手を繋いで歩いていた。
「ねぇ進藤くん、なんでこんなことしてるの?」
「なにが?」
「いや、私と手を繋ぐ必要はないんじゃないかなーと思って」
私は大崎くんじゃないし、こんなことしても意味ないと思う。
「僕は大崎が触れた手に触れたいだけだよ」
あっけらかんと言う彼は、別に嬉しそうでもなんでもない。
やっぱりこれ、意味ないよね?
そっと手を解こうとしたが、ぎゅっと握られかなわなかった。
「進藤くんは、どうして大崎くんのことが好きになったの?」
「それ、佐倉さんに言う必要ある?」
「まあ、一応こんなことしてるわけだし聞いておいてもいいのかなーと」
「ふーん。じゃあなんで佐倉さんはあBLが好きなの?」
「え?! それ今言う必要ある?! ないよね?!」
「『俺は、周りになんて言われたっていい。お前と――』」
「わー! わーわーわーわーわーわーわー」
「だからうるさいよ」
待って、なんでセリフ覚えてるの? どういうこと?!
驚きを通り越して恐怖だよ!
それに私が先に質問したのに!
「で、なんで?」
首をかしげてにこりと微笑む進藤くん。
これはもう逃げられない表情だ。
大人しく私の趣味を暴露するしかないのか。まあ進藤くんにならいいか。
「それは……男性同士の恋愛は異性での恋愛より心の葛藤とか、障害も多くて……」
「うん」
「いろんな困難を乗り越えた先に結ばれる二人が尊いというか……」
「うん」
「同性同士だからこそわかりあえる関係に萌えるというか……」
「うん」
なんか、色々突っ込まれるかと思ったけど、意外と真剣に聞いてくれている――。
「でもそれって、異性のカップルと違って周りにオープンにせずに二人だけの場所、二人だけの世界で繰り広げられてて、リアルではあまりお目にかかれないってところがまた神秘的で妄想を搔き立てられるというか、女性では絶対に知りえない一面があるのかと思うともうたまらないよね!」
「夢物語だね」
「う゛っ……はい」
斬られた。聞いてくれてると思って調子に乗ってしまった。
「男同士だって普通の恋愛と変わらないよ。別に神秘的でもなんでもない。好きになって、振られて落ち込んで。仮に付き合ったって、喧嘩して別れてまた別の人を好きになって。残念ながら佐倉さんが思ってるようなドラマチックな展開なんてそうそう起こらないよ」
「進藤くんの言う通りだよね……。結局は自分の願望なんだよね」
「まあ、妄想するのは自由だから」
そういえば、進藤くんは男の人が好きってわけではないんだよな。
『男とか女とか、そんなこと関係ないよ』
それって、女の人も好きになるってことだろうか。
でも、性別なんて関係なく、一人の人間を好きになって、恋心を抱くってすごいことだよな。
「あ! なんで大崎くんのこと好きなったか聞いてない!」
「趣味を語り過ぎて忘れたかと思ってた」
「忘れてないよ! ちょっと忘れかけてたど、忘れてない!」
進藤くんはフッと笑うと、私の手を離す。
そして握っていた手のひらを見つめると、ゆっくりと指を閉じた。
「中学のとき大崎に言われたんだよね『進藤って幽霊みたいだな』って」
「え、それ悪口じゃない?!」
「まあ普通に捉えるとそうなんだけど。それから大崎はやたら僕に何か食べさせようとしたり、日陰に座ってる僕をわざと日向に移動させたり、変にかまってくるようになったんだよね」
「それで、好きになったの?」
「気づいたら、好きだった。僕の視界にはいつも大崎がいる。それが、すごく安心するんだ」
進藤くんは幼い頃から中性的な容姿でよくからかわれたりもしたそう。
中学に入ってからは、女子にもてはやされ、男子からは怪訝に思われ、それでいて容姿と性格のギャップに勝手に落胆され、嫌気がさしていた。そんな中、大崎くんだけは誰とも違う接し方をしてきたそうだった。
「大崎くんて面白いよね」
「大崎のこと好きになった?」
「まだ一日目だしそんな急に好きにはならないよ」
「ふーん」
私が、大崎くんを好きになったと言ったら、進藤くんはどうするのだろうか。
嫉妬する? なにも思わない? 別に関係ないって言う?
私はまだ、誰かを好きになる気持ちがわからない。
「ところで進藤くんて漫画好きなの?」
「そんなに。どちらかというと小説のほうが好き」
「それなのに大崎くんのためにわざわざ発売日に漫画を買いに行くなんて。けっこう健気なことするんだね」
「うるさいよ佐倉さん」
少しむくれて照れている進藤くんは、すごく可愛い。
彼が、こんな顔するなんて知らなかった。
クラスメイトに見せるクールな表情とも、大崎くんに見せている楽し気な表情とも違う。
これが、恋をしているってことなんだろうな。
「てか、進藤くんて意外とよく喋るんだね」
「もうほんと黙って」
手は、もう繋いでいない。
私たちが並んで歩く理由もないけれど、自然と横を歩いて帰った。
「じゃあね佐倉さん。明日僕は昼休み仮病で寝てるから、大崎を誘って一緒にお昼ご飯食べてね」
「え、私から誘うの?!」
「それくらいできるでしょ」
「でも自分が一緒に食べたいってならないの?」
「わかってないな佐倉さんは。僕は、僕には見せない大崎の顔を知りたいんだよ」
「そういうもんなの?」
「あーん、とかしてくれてもいいよ」
「いやしないから!」
結局私の家の近くまで送ってくれた進藤くんは、クスクス笑いながら来た道を戻っていった。
いや待てよ。何があったか話すのはまだしも、こっちから行動するなんて約束してないんだけど!
なんか上手く進藤くんに乗せられてる気がする。
私、これでいいのか?
まあお昼ご飯一緒に食べるだけだし、いいか――。
このドキドキは、大崎くんの時とは全然違う。
ときめきでもない、緊張でもない。
なんだろうこれは。罪悪感だろうか。
でもなぜか、嫌ではなかった。
そんなことを思いながら、進藤くんと手を繋いで歩いていた。
「ねぇ進藤くん、なんでこんなことしてるの?」
「なにが?」
「いや、私と手を繋ぐ必要はないんじゃないかなーと思って」
私は大崎くんじゃないし、こんなことしても意味ないと思う。
「僕は大崎が触れた手に触れたいだけだよ」
あっけらかんと言う彼は、別に嬉しそうでもなんでもない。
やっぱりこれ、意味ないよね?
そっと手を解こうとしたが、ぎゅっと握られかなわなかった。
「進藤くんは、どうして大崎くんのことが好きになったの?」
「それ、佐倉さんに言う必要ある?」
「まあ、一応こんなことしてるわけだし聞いておいてもいいのかなーと」
「ふーん。じゃあなんで佐倉さんはあBLが好きなの?」
「え?! それ今言う必要ある?! ないよね?!」
「『俺は、周りになんて言われたっていい。お前と――』」
「わー! わーわーわーわーわーわーわー」
「だからうるさいよ」
待って、なんでセリフ覚えてるの? どういうこと?!
驚きを通り越して恐怖だよ!
それに私が先に質問したのに!
「で、なんで?」
首をかしげてにこりと微笑む進藤くん。
これはもう逃げられない表情だ。
大人しく私の趣味を暴露するしかないのか。まあ進藤くんにならいいか。
「それは……男性同士の恋愛は異性での恋愛より心の葛藤とか、障害も多くて……」
「うん」
「いろんな困難を乗り越えた先に結ばれる二人が尊いというか……」
「うん」
「同性同士だからこそわかりあえる関係に萌えるというか……」
「うん」
なんか、色々突っ込まれるかと思ったけど、意外と真剣に聞いてくれている――。
「でもそれって、異性のカップルと違って周りにオープンにせずに二人だけの場所、二人だけの世界で繰り広げられてて、リアルではあまりお目にかかれないってところがまた神秘的で妄想を搔き立てられるというか、女性では絶対に知りえない一面があるのかと思うともうたまらないよね!」
「夢物語だね」
「う゛っ……はい」
斬られた。聞いてくれてると思って調子に乗ってしまった。
「男同士だって普通の恋愛と変わらないよ。別に神秘的でもなんでもない。好きになって、振られて落ち込んで。仮に付き合ったって、喧嘩して別れてまた別の人を好きになって。残念ながら佐倉さんが思ってるようなドラマチックな展開なんてそうそう起こらないよ」
「進藤くんの言う通りだよね……。結局は自分の願望なんだよね」
「まあ、妄想するのは自由だから」
そういえば、進藤くんは男の人が好きってわけではないんだよな。
『男とか女とか、そんなこと関係ないよ』
それって、女の人も好きになるってことだろうか。
でも、性別なんて関係なく、一人の人間を好きになって、恋心を抱くってすごいことだよな。
「あ! なんで大崎くんのこと好きなったか聞いてない!」
「趣味を語り過ぎて忘れたかと思ってた」
「忘れてないよ! ちょっと忘れかけてたど、忘れてない!」
進藤くんはフッと笑うと、私の手を離す。
そして握っていた手のひらを見つめると、ゆっくりと指を閉じた。
「中学のとき大崎に言われたんだよね『進藤って幽霊みたいだな』って」
「え、それ悪口じゃない?!」
「まあ普通に捉えるとそうなんだけど。それから大崎はやたら僕に何か食べさせようとしたり、日陰に座ってる僕をわざと日向に移動させたり、変にかまってくるようになったんだよね」
「それで、好きになったの?」
「気づいたら、好きだった。僕の視界にはいつも大崎がいる。それが、すごく安心するんだ」
進藤くんは幼い頃から中性的な容姿でよくからかわれたりもしたそう。
中学に入ってからは、女子にもてはやされ、男子からは怪訝に思われ、それでいて容姿と性格のギャップに勝手に落胆され、嫌気がさしていた。そんな中、大崎くんだけは誰とも違う接し方をしてきたそうだった。
「大崎くんて面白いよね」
「大崎のこと好きになった?」
「まだ一日目だしそんな急に好きにはならないよ」
「ふーん」
私が、大崎くんを好きになったと言ったら、進藤くんはどうするのだろうか。
嫉妬する? なにも思わない? 別に関係ないって言う?
私はまだ、誰かを好きになる気持ちがわからない。
「ところで進藤くんて漫画好きなの?」
「そんなに。どちらかというと小説のほうが好き」
「それなのに大崎くんのためにわざわざ発売日に漫画を買いに行くなんて。けっこう健気なことするんだね」
「うるさいよ佐倉さん」
少しむくれて照れている進藤くんは、すごく可愛い。
彼が、こんな顔するなんて知らなかった。
クラスメイトに見せるクールな表情とも、大崎くんに見せている楽し気な表情とも違う。
これが、恋をしているってことなんだろうな。
「てか、進藤くんて意外とよく喋るんだね」
「もうほんと黙って」
手は、もう繋いでいない。
私たちが並んで歩く理由もないけれど、自然と横を歩いて帰った。
「じゃあね佐倉さん。明日僕は昼休み仮病で寝てるから、大崎を誘って一緒にお昼ご飯食べてね」
「え、私から誘うの?!」
「それくらいできるでしょ」
「でも自分が一緒に食べたいってならないの?」
「わかってないな佐倉さんは。僕は、僕には見せない大崎の顔を知りたいんだよ」
「そういうもんなの?」
「あーん、とかしてくれてもいいよ」
「いやしないから!」
結局私の家の近くまで送ってくれた進藤くんは、クスクス笑いながら来た道を戻っていった。
いや待てよ。何があったか話すのはまだしも、こっちから行動するなんて約束してないんだけど!
なんか上手く進藤くんに乗せられてる気がする。
私、これでいいのか?
まあお昼ご飯一緒に食べるだけだし、いいか――。



