薄暗い冷え切った室内に、小さく嗚咽が響く。

もう、あれからどれくらい経ったんだろう。

“彼”を失ってから。

いくつ季節が通り過ぎていっただろう。


まだ、私の時間は。

あの冬で止まったまま──。






「ありがとうございましたー」

チリリン、とドアベルを鳴らして出て行くお客さんの背に頭を下げる。


あれから私は会社を辞め、実家近くの雑貨屋さんでパートとして働いていた。

自ら命を絶った冬を見つけた後の私は、今思い返しても酷い荒れようで。

とても会社勤めの出来る状態ではなかった。

酷く心配してくれた春や夏の言葉が素通りしてしまうくらい、まるで抜け殻のようだった1年前の私。

優しい色の春が過ぎ、燃えるような熱い夏が過ぎ、ゆっくりと、しかし足早に秋が過ぎていく頃……ようやく、私は“生活”を始めた。

家族の心配する顔をもう見たくなかったし、何より……。


ピロピロピン、とエプロンのポケットから軽やかに音が鳴る。

お客さんがいないのを確認して、ポケットから白い携帯電話を取り出した。

メール送信者、春──。