それから一ヶ月後――――。

「早く影の英雄様達にお会いしたいわ」

「一人はライナー・ドレインバス様の奥方様なのですよね?」

「戦場の女神と呼ばれているのよ」

「楽しみですわ」

 影の英雄を一目見たいと、王城の大広間に貴族達が集まっていた。歓談する貴族達の耳に、王の登場を知らせる声が響き渡ると、広間に静寂が訪れる。それを合図としたように、王が姿を現した。この国のトップとしての、威厳とオーラを放ち、登場した王に向かって皆は頭を垂れた。そんな貴族達を満足げに一瞥した王は、声を張り上げた。

「皆の者、今日はよくぞ集まってくれた。頭を上げよ」

 陛下の言葉に皆が頭を上げると、全て視線が陛下に向かう。貴族達のその視線には、急かすような期待が浮かべられていて、陛下は苦笑するような表情を一瞬だけ浮かべた。皆が子供の様に瞳を輝かせる姿に、陛下はゴホンと一度咳払いをし、もったいを付けるようにもう一度声を張り上げた。

「今日は影から我々を救ってくれた英雄の披露目だ。私から感謝の意を表したい。影達、いるのだろう?」

 その言葉に、貴族達がザワついた。

 まるでもう影達が近くにいるような口ぶりに、貴族達はキョロキョロと辺りを見渡した。その時、声だけが大広間に響き渡った。

「はっ!陛下此処に!」

 凜とした美しい声に、聞こえるのは声だけだというのに、皆がホゥッと聞き惚れる。

「今日だけ姿を現してくれるか?」

「はっ!」