アメリアが口角を上げていると、数名の令嬢達がライナー様に近づいてきた。
「ライナー様、わたくしとダンスを踊って頂けませんか?」
「いえ、わたくしと踊って下さい」
「そんな、わたくしとお願いいたします」
そんな声と共に私達は令嬢方に囲まれてしまった。いくら認識阻害という隠蔽の魔法を掛けていると言っても、私が隣にいるのに凄いと思う。私は目立たないように、そっとライナー様の腕を放し、後方に移動しようとしたところで、手を取られた。
「アメリア、何処に行く?」
私は回りに声が聞こえないように、小さな声でライナー様に答える。
「いえ、私は仕事がありますので、後方へ移動いたします」
「それなら俺も行く」
「ライナー様はそのままで」
「しかし……」
ライナー様がまた、悲しそうに顔を歪めた。
困ったな……そう思っていると、令嬢達が騒ぎ出した。
「あれがライナー様の奥様?日陰の令嬢?」
「まあ、あの日陰の?」
「何というか……存在感が無いですわね」
そんな声が聞こえてくるがアメリアは無視をする。そんな事より今はライナー様だ。子犬のような顔をして、こちらを見ているのだから。
「ライナー様、その……今はあまり目立ちたくないのですよ。分かって頂けますか?」
そう言いながらライナー様の頭を撫でると、悲しそうな顔から無理矢理に笑ってこちらを見た。無理矢理に作った笑顔が痛々しすぎて、何故か胸がキュンとしてしまう。
「ライナー様、後でご褒美を上げますから、今日の所は我慢して下さい」
そう言うと、ライナー様の顔がみるみるうちに綻んだ。その顔を見た令嬢達から悲鳴が上がる。
それはそうだろう。
普段は氷の貴公子と呼ばれる様な人が、花が咲くような笑顔を見せているのだから。
私は令嬢達の悲鳴を聞きながら、後方へと姿を消した。


