未来の中で微笑むアーサー殿下と、リリーナ嬢。私はそれを知っていたから拒否し続けた。
自分は影だ。
表舞台に出ることも、立つことも無い。
そう思っていたが王は私の力を欲していた。だからライナー様との婚姻を王命で決めた。私がこの国の外に出ることは、国の損失。そう案じていたのだろう。そんなことをせずとも、私はこの国から出るつもりは無いのに……。
そして現在……魔王は討伐され、小説の世界だったこの世界はハッピーエンドを迎えた。未来は私が描いた小説の世界から先を行く。
私は旦那様となるライナー様がいないことを良いことに、大きくため息を付いた。
ライナー様は小説の通りに、リリーナ嬢に恋をしている。それなのに王命で私との婚姻を余儀なくされた。ライナー様にしてみれば不本意な話なのだ。想い人がいる……その人は自分の親友とも呼べる王太子殿下の妃となるお方。報われない思いを抱き、生きていく……けしてそれを表には出さず、氷の貴公子として。
しかし決まってしまった私との婚姻。
やるせなかっただろう。
そのことには同情をする。
同情するけど、この世界は貴族社会だ。私は前世の記憶を取り戻したとしても、この国の貴族。貴族にとって恋愛結婚は皆無であることは承知で生きている。私達は家のために嫁ぐ。ライナー様だってそれを理解しているはずだ。現代日本とは違い恋愛結婚で『幸せに暮らしましたとさ』なんて言うのは夢物語。貴族は政略結婚がお決まりなのだから。それを子供のように駄々をこねて……ライナー様の態度は子供そのもの。ウエディングドレスを着た私を見て「リリー……」ですって?
私は青筋を立てながら拳を握りしめた。
いい加減、諦めなさいよ。
リリーナ嬢は半年後には王太子妃になるのよ。
リリーなんて愛称で呼んで良い方では無い。
「はぁぁぁーーーー」
私はもう一度大きく溜め息を付いた。


