日陰令嬢は常に姿を消して生活したい~あれ?私って転生者?陰から皆さんをお守りいたします。


 それなのに、そんなシュンとした顔でこちらを見ないで欲しい。まるでその表情は、悲しんでいる子犬のようだった。垂れた犬の耳と尻尾が見える。前世で私が書いていた小説でそんな表現をしたけど、実際にこうしてお目に掛かる日が来るなんて。

 可愛いとか思ってしまったら負けだわ。

 何に負けるのか分からないが、アメリアはなぜかそう思った。

「アメリア……ん?」

 手に持った果物をもう一度私の前に近づけ、ライナー様はこちらを見てくる。

 ああもう!

 食べれば良いんでしょ。

 私は口を開けるとライナー様が持っていた果物を口に入れた。それはやはりリンゴのような食感で、甘くて美味しかった。ゴクリと私が咀嚼するのを見て、ライナー様が満面の笑みを見せた。

 なっ……何その満面の笑み。

 今まで見たことの無い、幸せそうな顔をするライナー様の笑顔に、心臓がドキンッと跳ねた。

 嫌だ、何これ!
 
 うそ、うそ、うそ……。

 こんな感情知らない。

 真っ赤になって俯く私の顔を、ライナー様が軽く顎を掴んで上げた。以前私がライナー様にした動作だが、自分がされると実に恥ずかしい。

「俺の妖精は可愛らしいな」

「よっ……妖精って……」

 ライナー様は私の髪の一房を取ると、そこに口づけた。

「名残惜しいがこれで失礼するよ。ここにいては我慢できなくなりそうだ」

「がっ……我慢……ですか?」

 私の質問には答えること無く、ライナー様は不敵に笑って部屋から出て行った。

 一体何が起きているのーー!!