グランディア王国に住む貴族でアメリア・キャンディス。キャンディス家の長女で本日結婚式を控えている日陰の令嬢。私が日陰の令嬢と呼ばれるのには理由がある。それは私があまり社交界に顔を出さないからだ。しかも、私と会話をしても、私の顔を覚えている人はいない。いや、覚えられない。それには理由があるのだが……。それに比べて私の旦那様となる人は宰相の息子で、現在宰相補佐をしている凄い人。名前をライナー・ドレインバス様と言う。ドレインバス家の嫡男で白銀に近い薄い水色の髪に、氷の様に冷たい青い瞳をしていている。目鼻立ちの整ったクールな人で、貴族の令嬢達に氷の貴公子なんて言う二つ名で呼ばれているらしい。
私はそんな旦那様になるこの人が昔からあまり好きでは無い。私が小さな頃、この人は私が傷つくようなことを言い、小さな少女の心に傷を付けた。貴族らしい表情を崩さないこの人が、正義感を振りかざして、自分がさも正しいと言う口調で高説を説く姿に、眉をひそめてしまうことがある。そんな事をお前が言わなくても、皆分かっている。そんな事さえも高らかに言ってのけるこの人は、顔が良いだけで許されてしまう。それがどうしてなのかと思っていたが、今、全てを理解した。
この人が『癒しのキスをあなたに……』という小説世界の登場人物だからなのだ。しかしメインヒーローでは無い。メインヒーローはこの国グランディア王国の王太子でアーサー・グランディア様。この世界は剣と魔法の世界で、光魔法である癒しの力を持っているヒロイン、リリーナ・キャンティー嬢とアーサー様、私の旦那様となるライナー様、騎士団長の息子であるガセル・レイモンド様が力を合わせて魔王を倒し、この世界を平和へと導く。その過程で、アーサー様とリリーナ嬢が愛を育んでいく物語だ。ありきたりの内容だが、それが意外と人気で小説からコミック化し更にアニメ化された。そう、これは私が前世で書いた小説の世界。


