そう思いながら私は自分の顔に認識阻害の魔法『隠蔽』を掛ける。どうせ私を見ていないなら、認識できない方が良い。結婚式が終わり私達は陛下が用意してくれた屋敷へと向かった。これは魔王討伐の褒美として与えられた屋敷だった。上部分は普通の住居となっているが、地下部分は影の本部となっている。王城にある地下へも一瞬で転移できる魔法陣もあるので、何かあってもすぐに向かうことが出来るようになっていた。

「お嬢様……奥様お疲れ様でした」

「ふふふっ、言い直したわね。シャルル、そうね。疲れたわ」

「お茶をお入れいたします」

「ありがとう」

 結婚式の緊張感から解放された私は大きく溜め息を付いた。


 そして迎えた結婚初夜――――。

 ベッドの上に座り、ライナー様をひたすら待つ。真っ暗な部屋で、私は前を向いていた。それから1時間が経ち、2時間が過ぎた。しかし扉をノックする音は聞こえてこない。

 それからどれほど時間が過ぎただろうか?

 空がぼんやりと明るくなり出した。

 私は一睡もせずに、ベッドの上に座り扉を見つめていた。

 しかしライナー様が扉を叩くことは無かった。

 鳥のさえずる音が聞こえて来る頃、扉がノックされた。

「はい。どうぞ」

 私の返事を聞いて、ゆっくりと扉が開かれた。

「奥様おはようござい……」

 シャルルがそこまで言って、息を呑んだ。昨夜と同じ格好で座っている私を見て全てを察したのだろう。シャルルの手が震えているのがここからでも見える。

「シャルル私は大丈夫よ。気にしないで、落胆はしたけれど、私の好きにさせてもらうって決めたから」

 そう、私は決めたんだ。

 ライナー様には期待しない。

 私の好きなようにさせてもらう。そんな私に意見なさるようなら、私はもう容赦はしない。

「私に意見するようなら、子犬のように躾けて差し上げますわ。私好みにね!」

 私は悪役令嬢も真っ青な高笑いを見せた。

 そして自宅の地下へと引きこもった。