その時、教会の鐘の音が響き渡った。それと同時に沢山の文字が流れ込んでくる。私は時々こうして神の啓示を受け、未来を見ることが出来る。まるで体験したかのような情報が脳内に浮かび上がることがあるのだ。

 そして今……膨大な量の情報が頭の中に……。

 ん……これは……いつもと違う……。

 これは記憶だ。

 物凄い量の情報が頭の中を支配する。

 何?

 これは……私は……日本人?

 小説?

「つっ……痛っ……」

 頭を押さえ顔を歪ませていると、慌てた様子のシャルルがやって来た。

「お嬢様大丈夫ですか?!」

「シャ……シャルル大丈夫よ」

 この子はシャルル……そう、私の専属の侍女で小さな頃からずっと一緒に育った。苦しい時も悲しい時も、いつも側にいてくれた。栗毛色のくせっ毛の髪を三つ編みにして優しく微笑んでくれる。私の右腕。

「お嬢様」

 シャルルは私に駆け寄ると、私の顔を覗き込んだ。

「顔色が悪いです。少し横になりますか?」

「いいえ、大丈夫よ。ドレスに皺が出来てしまうから、横にはならないわ」

「でも……今にも倒れてしまいそうなお顔をされています」

「緊張しているのかもしれないわね。シャルル温かいお茶をお願い出来る?」

「はい。少々お持ち下さい」

 シャルルが温かいお茶を用意している間に、私は頭の中を整理する。今も物凄い量の記憶が脳内を駆け巡り、目眩で倒れそうになるのを精神力で耐えぬく。

 えっと……私は日本人で小説家をしていた。賞もいくつかもらってコミック、アニメ化もされて順風満帆だったはず……。まって、これって夢?やけにリアルだけど、夢だよね?夢でいいんだよね?

 しかし現実を見ろとでも言うように、ズキズキと痛む頭の痛みによって現実に戻される。

 私は日本人では……無い。